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グエムル -漢江の怪物-のryosukeのレビュー・感想・評価

グエムル -漢江の怪物-(2006年製作の映画)
4.4
冒頭のグエムルの登場シーンの素晴らしさ...。スピルバーグ「宇宙戦争」等もそうだが、生活空間が一瞬で異世界に切り替わるこの呆気なさ、為す術のなさこそがパニック映画に見せて欲しいものなんだよね。だらっとした空気の微笑ましい日常描写に引き続く異変が落差を作り出し、ソン・ガンホのカメラ目線ショットからの切り返しの一瞬で全てが変わってしまう。とにかく怪物の見せ方が上手すぎる...。ぬらっとしたグエムルの姿形、運動を魅力的に見せるアイデアのバリエーションの豊かさが見事。この辺りも「宇宙戦争」と同じく。揺れるトレーラーハウス、バスの車窓から眺める惨劇。
悲惨極まりないはずの葬式のシーンをスラップスティックなコメディ調(ポン・ジュノ史上最も低空の?ドロップキックも見られる)にしてしまう辺りポン・ジュノの曲者っぷりが表れている。重くなってもおかしくない展開にポップな軽快さを付与する姿勢が好み。ギョッとするような描写とコミカルさの同居は「ほえる犬は噛まない」以来の真骨頂だ。いつも通り人々は消毒剤の煙に包まれていき、「ほえる犬」のレインコートを思わせる黄色い防護服も登場する。
毎度お馴染みの隙間から向こう側を見つめる描写だが、本作で目線の先にあるのは怪物そのもの。橋の下をグルグル回転する動きが魅力的だなあ。
人々がウイルスに怯えており、道にはマスク姿がずらっと並び、マスクを外して咳をしようものなら凄い顔で見られてしまう...ってこれはタイミングが...。
ホームレス兄弟にせよ幼少期のカンドゥにせよ、貧困ゆえの犯罪という図式は頑固に守られており、「パラサイト」もそうだが犯罪は貧者が社会に一発かましてやる道具として、爽快に、当然の権利のように描かれている側面もあるのが(個人的には)好ましく思う。何かあったらすぐ賄賂を渡そうとするピョン・ヒボンの逞しさ。煙が漂う汚い路地で窓の向こう側に見えるクリーニング屋など、そこかしこにもう一つの「パラサイト」がありそうなロケーションも素敵。
いつも通り映像による語りも実に上手い。ソン・ガンホが食う缶詰の貝のヌルッとした質感がグエムルを想起させ不気味な空気になったところで携帯が鳴る。ヒョンソ(コ・アソン)がビール缶を蹴っ飛ばし中身が吹き出す描写から悲劇が始まっていたところ、グエムルが吐き出すビール缶の同様の描写が転機を予感させる。絡めとったヒョンソをゆっくりと着地させる地点に落ちている人骨が不穏な緊張感を作り出す。
中盤、「パラサイト」のような不潔な食卓で、後ろからひょこっとヒョンソが顔を出す描写(驚いた)などちょっとやり過ぎの外連かもしれないが、コメディというジャンル選択故に何でもありになっているのがポン・ジュノのずるいところ。
終盤もう一爆発あれば更に大傑作だったが、今のところ「パラサイト」の次点は本作かな。予定調和に三人が勢揃いする終盤の展開、アーチェリーで怪物を丸焼きにして燃え盛る怪物に背を向けるペ・ドゥナとか最早ギャグにも思えるのだが、ここら辺の絶妙なバランスも味というものだろう。
事も無げに消されるテレビが告げるアメリカの失態は単なるミスだったのだろうか。ウイルスが存在しないという「国家機密」を話す医師の過剰に不気味な面を思い出すと、ポン・ジュノ作品で常に持たざる一般大衆を包み込む煙としてのエージェント・イエロー、あれは一体何だったのかと思えてならないが...。
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