平野レミゼラブル

グエムル -漢江の怪物-の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

グエムル -漢江の怪物-(2006年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

そう言えばポン・ジュノ監督の作品って観たことなかったなと『パラサイト』を観る前の予習に鑑賞(『殺人の追憶』は予習にしては重そうすぎたので延期)。
単純な怪獣パニック映画かと思ったら、こちらの想像していたものを悉く「外し」ていく楽しさと快感を味わえる怪作でしたヨ。

本作に出てくる怪物(グエムル)は海洋生物をベースにどことなくギーガーチック。そこまで造形が魅力的ってワケでも、特に秀でて凄いという部分があるワケでもないけれど、単純にCGの出来が良く、漢江のありふれた日常に突然浸食していくような異様な絵面が面白いので最高だ。
特にパッケージにもなっている、怪物が徐々に近づいてきて姿がハッキリしだす構図が白眉。センスに溢れてる!
ちなみに現在漢江には、このグエムルの像が飾られてるらしい。とんでもねェセンスだ!ゴジラやガンダム置くのとワケが違うんだぞ!?

CGの出来は良いのだが、そのぶん金食い虫なんだろうなってのは劇中でもひしひしと感じられ、ところどころ怪物を隠そうという構図も目立つ。しかし、ただ見せないのではなく、見せないからこそ恐ろしいという演出へと昇華させているのが技巧的。人が逃げ込んだ倉庫に突っ込んでいく場面や、トラックの裏側で人が食われているであろう場面が嫌な想像を掻き立てる。
ただ、冒頭で描かれた米韓連合軍による薬品垂れ流しのシーンは予算云々以前に画がただただチープでビックリする。怪物誕生の要因だし、本作の裏テーマである「権力層への不信」を描く最初の場面が理科室の実験にしか見えないってのも凄い(一応2000年に在韓米軍が大量のホルムアルデヒドを漢江に流した事件を元にしてるらしいけど)。「私は埃が嫌いなのだよ」といったセリフ回しまでチープだし、瓶の数がギャグみたいに多いのも笑う。なんだったんだアレ。

まあ冒頭で若干のチープさは抱えつつも、店番で爆睡・客に出すスルメの脚を一本横領・店そっちのけでテレビ鑑賞というソン・ガンホ演じる絵に描いたような駄目親父の日常が挿入される。10本あるスルメの脚を1本ちょろまかして誤魔化せると思っている時点で、ズレててバカなのだがそんな抜けたところが既に面白い。ガンホ一家、娘を除いて全員なんか変というか間抜けなので彼らが集まると途端に『フルハウス』みたいな雰囲気になる。

それでも怪物襲来後は、なけなしの勇気を振り絞って勇敢なる米兵と一緒に闘うガンホを応援してしまう。やるじゃん!ガンホ!!
でも怪物から逃げる時、最愛の娘の手を取ったと思ったら、別の子と取り違える。何やってんだ!ガンホ!!
そんな感じで、わざと常道から展開を「外し」てくる。

こういう「外し」って本当に難しい技術で、笑うより先にポカンとしてしまうようなシュールな雰囲気を出せればまだ良くて、最悪の場合はシリアスに水を差されて「おちょくってんのか!」と怒りの感情が出てしまうんですよね。その点、本作の「外し」は完璧です。なんてったって「娘を喪って哀しみに暮れる家族・行き場のない怒りを取り違えた父親に向ける伯父・その様子を容赦なく映し出すマスコミ」という本来なら哀愁・悲痛・胸糞の三拍子揃ったつらいシーンが、一家揃ってどったんばったんレスリングやってるようにしか見えないというコメディシーンとして成り立っているから。冒頭から駄目家族の駄目日常を怪物そっちぬけにコミカルに描いているため、ともすれば不謹慎なんじゃ…というシーンもシュールな笑いに昇華されている。

その後の政府の役人がやってきて高圧的に振舞う一連のシーンも、役人が滑って転んだり、テレビのチャンネルが合わないなどの「これいる?」っていうような外しを挿入していくので楽しい。この奇妙な外し、全体的に『寄生獣』で突如ブッ込まれるシュールギャグに感覚は近い。というか作品全体に漂うドライで無機質な空気といい、ポン・ジュノ監督と岩明均作品の相性って良いような気がする。『パラサイト』の次はリメイク版『寄生獣(パラサイト)』を撮って欲しい。

そんな「外し」はお約束に関しても徹底されているから作中で意味深に語られる設定や怪しげな行動の全てが特になんでもないミスリードという。怪物の返り血を浴びたり、なんか汚染されてそうな貝を食べたり、麻酔無しで頭蓋開放手術を行われたりと怪物化・パワーアップ化のフラグを立てられていたソン・ガンホだが別にそれら全てに意味がなかったという(笑)でもまあ「背中が痒い!」って宣ってた時も別に怪物化のフラグだとは全く思わず、親父の言う「風呂に入ってないからだろ」って理由の方だと確信はしていたんだよな。このオッサンはゼッテェー駄目なままだな!っていう妙な安定感。

しかしお約束を外しに外し、駄目な部分は駄目なままで突き進んだからこそ、三兄弟の連携で怪物を仕留めるという王道のクライマックスのカタルシスが光る。火炎瓶、アーチェリー、道路標識と彼ら全員の心の弱さや失敗しかない過去を象徴する武器をフル活用するのも熱い。でも、最終的な目的である娘はあえなく生命を落とすという最後の外し。そんなの有りかよォ!!

とはいえ、完全な鬱エンドというワケではなく、その娘が命懸けで守った少年は助かり、ガンホとまた元の日常に戻るというエンドはどことなく希望に満ちている。指名手配のままだけど、次に怪物が出ても立ち向かうという姿勢を持つに至ったソン・ガンホはもうただの駄目親父ではない。少年も沢山の食べ物に囲まれて幸せそうだし、なんだかこの映画に相応しい独特の余韻を持つ終わり方だったな。

オススメ!

あとこれは完全なる余談かつ質問なんですが、本作だと「銅メダル取ったんだ」が何度聞いても「ドウメダルトッタンダ」って言ってるように聞こえるんですが、これはマジでそういう発音なんでしょうか。韓国映画観てるとたまに日本語にしか聞こえない言葉あるんだよね。有識者の方の回答を求めます。