Miller

キツツキと雨のMillerのレビュー・感想・評価

キツツキと雨(2011年製作の映画)
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林業を営む無骨だが気の良い男の克彦と、その山村に映画撮影に来た新人監督の幸一との交流が描かれる。

チェーンソーで伐採作業中の克彦のもとに助監督の鳥居が来るところから物語が始まるが、克彦と鳥居のディスコミュニケーション具合からして面白い。
作業音を止めてもらおうと思っている鳥居が、克彦に呼びかける
「あの今本番中なんで」「はい」
「本番中なんで」「はい?」

「あのー今映画の撮影をしていて」「はい?」
「音が入っちゃうんで作業を止めてもらっていいですか、一瞬」「一瞬?」

「一瞬というかちょっとの間です」「どっち?」
「ちょっとの間です」「止めとるけど、今」

伝わらなさ具合と間の笑いがたまらなく良い。



克彦は妻に先立たれ、無職の息子と二人暮らしをしている。
そんな克彦とふとした縁から撮影現場を共にすることになる映画監督の幸一は、新人監督で自分の脚本や演出に自信を持つことが出来ない。
克彦は、ゾンビの存在を知らないほど映画のことを何も知らないが、幸一の脚本を読んで楽しみ、落涙もする。
克彦は映画の楽しさに気が付き、映画製作の手伝いにのめりこんでいく。
自分の映画を心底楽しんでくれる克彦と時間を共にするにつれて、幸一も変化していく。


心底物事を楽しむ情熱を持った克彦から情熱が感化され、幸一や撮影現場にも情熱が戻ってくる様は、清々しく観ていてとても心地よい時間だった。
物語の佳境の、雨の中、高原の奥手から克彦が走ってくる場面は、往年の名作のようなハッとする場面で印象に残る。

物語は終始ほのぼのとした空気が流れ、
幸一の口ごもりながらの説明に対しても、物凄く話が伝わり過ぎる山崎努演じる大物俳優羽場との「おー」の「奮起か」「決意か」のやり取りも、
克彦と息子の浩一とのやり取りで、将棋の駒がベタベタすること、掛け声のないじゃんけんなどニヤっとする場面が沢山ある。


映画愛と人間愛に溢れた愛らしい作品で、何度も観返したい映画が一つ増えたことにとても嬉しくなった。

成長を見ることを楽しみにしながらも成長していくことを少し寂しく思うような、親戚の子供を愛でるようなそんな映画。
Miller

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