垂直落下式サミング

モスラの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

モスラ(1996年製作の映画)
4.8
絶対的な怪獣王ブランドの貯金を切り崩しながら壮絶な最後を迎えた平成ゴジラと、画期的なアイデアで興業的にも成功し世界的にも高い評価を得た平成ガメラ。その二つの影に隠れて、硬派な怪獣ファンからものの見事にスルーされがちだけど、僕は大好き平成モスラ三部作。
確かにモスラが地球の守護神という設定など、似ている話ではあるのでシリアス方向で比較されると分が悪いのだが、本作は子供の視点で描かれたファンタジックな大冒険物語の世界を見事に打ち出していると思う。古代遺跡で発見したオブジェが重要なアイテムで、それを持ち帰った博士が娘にペンダントとしてプレゼントしてしまう展開は、シンクロニシティでありパクリと言ってはいけない。
モスラが主役で、キングギドラの親戚のデスギドラというヤツが敵なだけあって、空を仰ぎ見るカットが多く、演出によって、そのつばさの巨大さが強調されている。
デスギドラと対決で消耗し、幼虫モスラを助けて力尽きてしまう親モスラの死は感動的だが、そこでエモーショナルに寄りすぎないのがちょうどいいし、実物を作っているからこそ巨大な生命が最後のときをむかえたのだと、より切実に感じられる。そして、ここからのリベンジがアツい!
平成モスラ三部作は、登場する3人の小美人のドラマが見所でもある。これまでの小美人と比べて性格設定がしっかりしていて、彼女らはエリアスという種族で、3人とも血の繋がった姉妹だ。次女モルと末女ロラは正義の小美人で、長女ベルベラは悪い小美人。モルは明晰で利発、ロラは甘えん坊な愛されキャラ、ベルベラはバブリーな厚化粧、これは長女がグレてもしかたないだろう。妹から説教をくらってしまい「なにさ、いい子ぶっちゃって」とでも言いたげな不貞腐れた態度をとりながらも、妹たちに後ろ暗いことでもあるかのようにどこか申しわけなさげな顔をする憎めないベルベラに感情移入してしまった。コイツ悪ぶっちゃって可愛い!
この小美人たちの話がおもしろいので、主人公であるはずの少年の視点になると途端につまらなくなるのが難点か。
少年の家の中で、小型モスラのフェアリーに乗ったモルとロラが、小型の有翼獣ガルガルに乗ったベルベラを追いかけるシーンは、今見ると合成丸出しな安っぽさだが、よく見ると風圧で布が舞っていたり、フローリングに姿が反射していたりと、特技のこだわりを感じる部分があって、この手作り感がかわいい。