がんちゃん

ブラッドシンプル ザ・スリラーのがんちゃんのレビュー・感想・評価

3.5
「細かすぎて伝わらない映画監督」
コーエン兄弟デビュー作の再編集版。

【見どころ1:こだわりの強すぎる再編集】
オリジナルよりも再編集版の方が4分短くなっている。普通は逆じゃね!?
コーエン兄弟はとにかくムダを省きたがるで有名。DVD特典で編集前と後を比較できるが、素人目にはほとんど変わってなくね?と思うような箇所もあり、クリエイターとしてのキモ…こだわりを感じた。自分がバンドマンやってた頃、ギターの音色に凝りすぎてエフェクターボードが2mくらいになってた先輩を思い出すなぁ…。
ちなみに何故こんなことができるかというと、自主制作映画のため監督がファイナルカット権を持ってるから。ジョージ・ルーカスがスターウォーズ過去作をやたらと再編集したがるのも同じ理由。

【見どころ2:数奇な偶然の連鎖に酔う】
「ブラッド・シンプル」とは頭にが血が上ってぼーっとした状態、という意味に取れる。複数の登場人物がそれぞれの思惑で見切り発車的に行動することで二転三転するストーリーを暗示している。結果、コーエン兄弟の作品はどれも観客が置いてかれるパターンが多いのだが、本作は男3女1のシンプル設計だから大丈夫!
一挺のリボルバーが登場人物たちの手を巡りめぐっていく奇妙な偶然の連鎖。果たして神は誰に味方するのか⁈残弾数をカウントしながら観るべし。

【見どころ3:主演女優に手を出す兄ジョエル】
駆け出しの若手主演女優フランシス・マクドーマンドは兄ジョエル(長髪)と撮影中に意気投合し結婚。2018年アカデミー主演女優賞に輝いた『スリー・ビルボード』ではゴツい武闘派おばちゃんを演じていたが、彼女にも可愛らしい時代があったんですね。 しっかしまだ一本も映画撮ってないくせに女優に手を出すとかジョエルてめぇこの野郎!
…俺も映画撮ろうかな。

ちなみにジョエルは『死霊のはらわた』でサム・ライミ監督の編集アシスタントをしていた縁で、本作では飼い犬が迫ってくる主観ショットにサム・ライミの編み出した撮影技法「シェイキーカム」が用いられている。撮影技法といってもカメラを2枚の板切れに固定して全力ダッシュするだけなんだが…。3人は友人としてその後も共同脚本を書いたりお互いの作品にカメオ出演したりしている。

【見どころ4:実はユダヤ教ネタが隠されている】
「ブラッド・シンプル」は“愚かな血統”という意味にも取れる。では登場人物たちの愚かな子孫とは誰のことだろうか?
ネットの噂によると、実はミケランジェロの絵画「アダムの創造」がヒントになっているらしい。従業員のレイはアダム、ボスのマーティは神で、2人のいい歳した男がイブ(厳密にはリリス)であるアビーを取り合っている構図になるそうだ。男ってバカよね〜ってことか?
更には旧約聖書の「士師記」やユダヤ人差別などのネタが二重三重に隠されている。壁に空いた6つの穴、リボルバーの6連装のシリンダー、水道管の六角形のバルブは全て「ダビデの星」を暗示している。本作はユダヤ系慈善団体の出資で製作されているので、きっと「ビバユダヤな映画作りますんでなにとぞ!」とか言って営業したのではないだろうか。
しかしコーエン兄弟は批評家から意味不明と言われようと絶対にタネ明かしをしない。分かる人だけ分かればいいっていう…
こういう人嫌いだわぁ(笑)

参考図書:「すべてはブラッドシンプルから始まった」→本作から『オー、ブラザー!』までの撮影裏話を収録した伝記。しかし本編の解説はほぼ無し…。嫌いだわー
がんちゃん

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