にく

狼よさらばのにくのレビュー・感想・評価

狼よさらば(1974年製作の映画)
4.0
作品としては評価できるが倫理的には評価しづらい、という苦味が残る映画だ。
 つまり、一人自警団たるブロンソンによる連続殺人が的確かつ魅力的に提示されるので、我々はそれを見ることを楽しんでよいのかどうか、始終戸惑わされることになるわけだ。作中、ブロンソンがほとんど「黒人」ばかり殺していることについて自己言及がなされることからも分かる通り、もちろん作り手たちはそのこと(自警団主義の美化)に自覚的だ。
 ブロンソンは銃を手に取るなり自らの内なる暴力衝動の奴隷となり、妻と娘を襲った3人組を探し出し仇を討つことなどまったく忘れてしまう。いや、妻と娘の件は西部への旅行同様、ただのきっかけに過ぎず、そもそも初めから敵討ちなど彼の頭の中にはなかったのかもしれない。ただひたすら強盗たちの命を、それも有無を言わさず奪い続ける。それが狩猟本能の正しい発揮の仕方だと言わんばかりに。そのとき、ニューヨークは未開の西部と化す。
 それまで建築家(アーキテクト)であったはずの男が、何かを無から作り出す神であることを辞め、若人の命を奪う(無に帰す)ことに奔走する悪魔になるというのだから、皮肉である。まぁ、それもマカロニ・ウェスタンのスター、ブロンソンが建築家に見えれば、の話かもしれないが。
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