<概説>
監督自身の従軍経験を元に物語られる、リアルのベトナム戦争。虐殺・略奪・背信なんでもアリなこの世の地獄に救済はあるのか。第59回アカデミー賞受賞作。
<感想>
この作品の直前にベトナム戦争批判批判とも取れる『ランボー』が公開されました。ですからベトナム戦争批判はある程度鳴りを潜めた次節の作品であるはず。
またオリバー・ストーン監督本人の従軍経験も鑑みると、これほどに単なる戦場を追いかけた姿勢の作品もないのではないでしょうか。
さて。ならば政治的意図は置いておいて。
まず激論になるであろうところを突きましょう。
すなわち「バーンズ軍曹は是か非か」という問題。
これについては両者の意見を聞いてみると、なるほどどちらも頷けるところがあります。頷けるのであれば、感情論だけではならぬと普段から公言しているだけに、私自身感情論だけで論じるのは避けたい。
現地民の虐殺についてはどうかーー
将兵としてなら是です。人間としてなら非です。
エリアスを処理したことについてはどうかーー
将兵としてなら是です。人間としてなら非です。
これは困った。立場次第で見方は変わる。
しかしここには無視できない確実なる非がひとつ。
"エリアスを銃撃した"という事実。こればかりは非。
エリアスを処理したことは戦争将兵としてならありうる判断でありましょう。理想論者は戦争の指揮を低くしてしまう。どこかで然るべき処分はせねばならぬ。
しかしこれを非公式な方法で執行するのがまずい。
最前線に一兵卒として送るならよし。撤退戦の殿として捨てがまるのもまたよし。命令不服従として告発するならばなおよし。それらは戦争続行の建前があり、それらは将兵の職能のうちです。
統率のためという建前が将兵を将兵足らしめる。
銃殺刑や虐殺を歴史上許可したのもこうした大義名分。
しかし建前もない私刑を犯したのなら。それは最早野獣。
統率のための処断が、結果統率を乱していては正当性も何もなく。見方は背後からの銃弾にも怯えなくてはなりません。なればオリバー軍曹の存在は、いよいよ軍隊の視点からも非でありましょう。
とはいえ悲しいかな。
味方殺しが立件された事例はすぐには見つからない。
ならば野獣を駆逐するために、また新たな野獣がいる。
戦争とは実にままなりませんね。