荒野の狼

プラトーンの荒野の狼のレビュー・感想・評価

プラトーン(1986年製作の映画)
5.0
1986年のアメリカ映画で、ベトナム戦争の米兵の行動を批判的に描いた最初期の映画であり、この映画自体が歴史といえる作品。アメリカがベトナムから撤退したのが1973年であるから、アメリカで、こうした作品が作られるのに、なお10年以上を要したことになる。映画の題名の「プラトーンplatoon」=小隊は、2-4個の分隊(squad)からなり、分隊が軍の最小単位で10名ほどからなる。本作は1967年が舞台で、この時期、ベトナム戦争に従軍した数10名から構成された小隊の短い期間(長くても数カ月)を描いた作品であるため、ベトナム戦争全体を描いたものではない。監督のオリバーストーンの実体験をもとにしたベトナム戦争の一部分を切り取ったものという見方もできるが、本作からベトナム戦争全般におけるアメリカ兵士の行動・思想、ひいては戦争一般の悲惨さを考えるにいたらせる作品と受け止めたい。
主役のチャーリー・シーンが最終版で、戦いはベトナムに対するものではなく、米兵の中でのものであったと総括しておいるとおり、映画で描かれている中心はモラルの低い米兵の行動で麻薬汚染、仲間内での殺人、誤爆、同士討ちなど。米兵は一年間の兵役を終えて帰国することだけを希望しており、家族と引き離され、地獄のような日々を生き抜いてく。しかし、これらは、いわば侵略した米側の話であり、いかに悲惨なものがあっても、加害者の中のものであり、この部分の共感は低い。
むしろ、本作で、印象深いのは、侵攻されたベトナム側が受けた残酷な仕打ち。ベトナム側は兵士も民間人も登場場面は短いのだが、ベトナム人を人間と考えない米兵によって、虐殺・放火・レイプが行われ、ここには一片の正義もない。主人公のチャーリー・シーンは比較的良識を保っている兵士のひとりとして描かれているが、ベトナム民間人を虐待するシーンや兵士を殺害するシーンもあり、「良識ある米兵」も残虐行為の例外ではないことは明らか。なお、本作で描かれる残虐行為のシーンそのものの残酷性は比較的低いので、全年齢層を対象に薦められる作品。
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