高橋早苗

マイレージ、マイライフの高橋早苗のネタバレレビュー・内容・結末

マイレージ、マイライフ(2009年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ライアン・ビンガムはいわゆる「解雇宣告人」
自分で部下を切れない 腰抜け上司の代わりに
初対面の従業員たちに クビを言い渡すのが彼の仕事


出張は年に322日
スーツケース1つでいつも空の上
「空港が我が家」というほど 自宅は空っぽ

「バックパックの中に入りきらない人生の持ち物は背負わない」のがモットーで
それをネタに講演をするほどの徹底ぶり


家族とは殆ど会わず むしろ面倒くさいと感じていて
結婚には興味なし
旅先で出会う 気の合う女と気楽な関係を続けている


彼の夢は
マイレージを1000万マイル貯めて
飛行機に自分の名を残し 機長と面会すること
その為にもマイルにならないお金は使わない主義
どこまでも徹底した男(!)


本社では 現地出張をなくす
ネット解雇システムが動き出していた
猛反対のライアンは
システムを提案した新入社員のナタリーと激しく衝突

上司は 新入社員に実際の解雇宣告を経験させるため
ライアンにナタリーの教育係を命じる


初出張で荷物が一杯のナタリーと
いつもの身軽なバックパックのライアン
部下の荷物を捨てさせるところから出張の旅は始まる


ナタリーには 解雇宣告の現実を知る旅
しかも 結婚も夢見る彼氏から
出張中にメール一通で別れを告げられるという
我が身の現実も知る 皮肉なおまけ付き


人を“切る”ことで初めて目にする現実に 彼女は衝撃を受けます
目の前で “切られた”者たちの主張が続く

 よく平気だね こんなに僕たちを苦しめて
 お前何者だよ?

 敏腕プロデューサーの私をクビに?
 あなたは莫大な報酬 私は給料ゼロ
 クソッタレ


 計画があるの ウチの近くに橋があるから
 飛び降りるわ


目の前で相手がどれだけ荒れようと
ライアンは静観し ナタリーに告げる
『人々を不安に突き落とす これが僕たちの仕事だ』


ある時は
ナタリーの的はずれなアドバイスにキレた男を
ライアンがこう諭す

『子どもは なぜスポーツ選手が好きか知ってるか
 夢を追っているからだ』

バスケなどできん と、ふてくされる男の前で 履歴書を眺め
『料理はできる』とひと言。

『フランス料理を習ってるね
 学生時代のバイトも 一流レストランだ

 いつかこの仕事を辞めて 夢を追うつもりだった?

 君は 今がチャンスだ
 生まれ変わる 子どものために』


会社に自分の時間を捧げ
会社時間に縛られて 自分自身の幸せを知らない人たちへ
ライアンは静かに言葉を続け
解雇という大きな衝撃を 少しでも和らげようとする


若いナタリーに自分の背中を見せる
彼なりの この仕事に対する自負



自分の仕事には絶対の自信があるものの
プライベートとなると…というのは
仕事人間に共通?

ライアンは 姉から
出張先で 妹と婚約者の写真を撮ってきて と頼まれる
自宅には ふたりが写った大きな看板が送りつけられている
3週間後に結婚する妹の為 引き受けはするが気乗りがしない

バックパックに入りきらない 幸せそうなふたりの写真は
彼にはうんざりするお荷物
結婚式への出席も ひとりでどうしようと悩む始末


家族を愛していないわけじゃない
だけどメンドクサイ

彼は 久しぶりに家族と会う気まずさからか 気楽な関係のアレックスを結婚式に同伴させる


次第に 彼の中で大切な存在になる彼女
ライアンは スケジュールを合わせて逢うだけでは満たされなくなり
衝動的に彼女の住むシカゴへ飛ぶ

だけど彼女には
彼女の“本物の”人生があった


『会いたかったんだ 家族がいるなら言えよ』
と本音を漏らしたライアン
…今まで持ったことのない“荷物”を 持ちたいと思った瞬間

だけど アレックスはあくまでクール
『あなたは日常からの逃避 息抜きよ
 あなたはどうしたいの?』


シカゴで撃沈し 帰る機上
よりによって こんなタイミングで(!)
長い間夢見た1000万マイル達成を迎える


夢見ていた時を迎えたというのに
7人めだ 最年少の偉業者だ
と賞賛されても

何度も何度も想像していたはずの あこがれの機長との会話も
まったく何も思い浮かばない


機長から お住まいは?と聞かれ
『ここです』
と答える彼の顔は
まるで帰る家を無くした子どもの表情


会社に戻ると、上司が告げる
我が社がリストラした人間が自殺した
そのショックから ナタリーが会社を去ったと


ライアンは初めて 自分の意思で 周りの人に
自分が持っているものを与えようとする


新しい職を探すナタリーへ 推薦状を書き
新郎新婦には 自分のマイルを譲る


「ネット解雇」システムは凍結
ライアンはまた出張を命ぜられる

いつまで?と聞くと
『ずっとだ』と上司の声が飛んでくる

彼もまた 会社に自分の時間を捧げているひと



空港の destination boardの前
ライアンは立ち止まる


彼が 解雇宣告人を続けたのか否か
映画の中では 語られることはないけれど


『人生も同じ 我々は重荷で動けなくなってる
 生きることは動くことだ』
と、自身が自ら語るように
彼は 彼自身に“新しいチャンス”を与えた


それは ひとつの価値観で縛っていた自分を
解放すること
解雇宣告のように


ライアンが手に入れたものは
マイルのためだけに飛んでいた自分に与えた
新しい翼


人は 今まで持たなかった選択肢を“持ってもいい”と自分に許した時
自由を感じる

 この仕事を続けてもいい 辞めてもいい
 新しい家族を持ってもいい 持たなくてもいい


ラストシーンの彼の表情から
あなたの“自由”感じてみてね!^_^
高橋早苗

高橋早苗