ライアン（ジョージ・クルーニー）は、人事コンサルティング会社で「リストラ宣告」のスペシャリストとして働いている。リストラが必要な会社があればどこでも飛んでいき、ほとんど家には帰らないくらいのワーカホリック。ライアンはまた、「バックパックを軽くしよう」という啓蒙スピーカーとしても活動しており、人間関係や所有物に縛られない、身軽な人生を啓蒙している。
ライアンは、今観ると「ミニマリスト」なんですかね？アメリカの「豊かさ」「幸福」という概念に挑戦しているなあと思いました。アメリカ人て、「家族と友人に囲まれ、自分の家を買い、車や電化製品を持ち、旅行をすること」が人生に成功した人、幸せな人と思っているから。
ライアンは40歳も過ぎて結婚もしてなくて、彼女もいなくて、家族ともめちゃ疎遠。家も持ってなくて、なんの個性もないモノトーンなアパートに住んでいる。でも、出張でほとんどいないからどーでも良くて、その代わりエアラインのマイレージを集めるのが趣味で、だけどそれを使って旅行はしない、ホテルや空港の従業員に常連として扱われることに満足を覚える。スーツケースの荷造りは完璧！
この映画、何気にすごいい好きなんですよね～。人生とは？結婚とは？仕事とは？人間関係とは？みたいのがなかなか深い。公開時の2009年は、リーマンショックで本当にリストラされた人がたくさんいたので、すごいタイムリーな題材だったし、実際、映画の中でリストラされた人たちは、デトロイトなどの都市で本当にリストラされた人をエキストラとして雇って「カメラを上司だと思って、リストラされたときに言いたかったことを言ってください」って言って撮影したんだって。
ライアンは、身軽な自分の生活を気に入っていたんだけど、それを脅かすのが大学の新卒で入って来たナタリー。私はこの映画で初めてアナ・ケンドリックを知ったんですけど、この役が一番ハマり役じゃないかと思います！まさにミレニアル世代！って感じですよね。リストラするのにスカイプのようなものでリモートですれば、出張費が削減できる、と提案し、社長がこれを気に入ってしまう。
ライアンは、「クビにされるという人生で最悪の時に、少しでもそれを楽にしてあげる」のが自分の仕事だと思っているので、この方法には賛成できない。プラス、自分のライフスタイルが変わってしまう。
この、バブル世代vs.ミレニアル世代の描き方も面白い。ナタリーは、ライアンの「リストラ出張」に同行させられるが、旅の途中で彼氏にテキスト・メッセージで振られる。その時わんわん泣くところとか、アナ・ケンドリックらしくていいな～と思うのですが、ライアンの世代の人達が、女性の社会進出を実現させてくれたことには感謝するけど、結局は彼氏とか結婚とかがないと安心できない、みたいなことを言うところがなんだか真実味があった。
ライアンと旅先で知り合うビジネスウーマン、アレックスを演じるヴェラ・ファーミガがまたいいんですよ～。ライアンの女性版って感じで、出張、出張の独身のライフスタイルを楽しんでいる。次はいつ会えるか？とお互いラップトップ開けて、次に同じ出張先になるところを探したり、別の街から電話してきて、「美味しいレストラン知ってる？」なんて情報交換したり、ヒマな夜に "Sexting" し合ったり。
でもだんだん本気になって来ちゃうんだけど、この2人の間にすごいケミストリーがあって、ドキドキするんですよ。
ライアンは今まで疎遠だった妹の結婚式に呼ばれてたんだけど、アレックスに一緒に来てくれないかと誘う。こういう家族の集まりに連れて行く女性っていうのは、特別だって意思表示なので、アレックスがそれを承諾するのも、本当に気が合うんだなと示唆される。
妹の結婚式も、アメリカの田舎の結婚式をすごくリアルに描いていて良かったなあ。趣味の悪いブライドメイドたちのドレス、街のさびれたホテルや公民館みたいなところで行われる披露宴。周りはじいさんばあさんや子供ばかりなのに、とってもロマンチックにダンスするアレックスとライアン。
あ、あと、アレックス、ライアン、ナタリーが、出張先で夜、何する？って言って、滞在先のホテルで開催されるIT 関係のパーティに潜り込む、ってのが面白かった。参加者のバッジを勝手に自分のものみたいにして装って、タダで飲み食い、ダンス、ラップのライブショーなんか楽しんじゃう。この時の3人のパーティ三昧がみんなすごいリアルで良い！
原題の "Up in the Air" は、「宙ぶらりん」な状態を指すのですが、この映画では同時に、ライアンみたいな出張ばかりしている人が飛行機で飛んでばかりいる状態と掛けているんだと思うんですけど、最後ライアンも「宙ぶらりん」になってしまう。
ネタバレはコメント欄で！
