あんがすざろっく

マイレージ、マイライフのあんがすざろっくのネタバレレビュー・内容・結末

マイレージ、マイライフ(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

人生の岐路における選択が、必ずしも全て正しいとは限らない。

今回のレビューはですねぇ、ちょっと面白くは書けないかな。
なので、ネタバレにしておきます。
読む人によっては、他人事には思えないですもんね。

ジャンルとしてはコメディになってるけど、これは純粋に楽しめなかったなぁ。
コメディではないですね、はっきり言って。
ただ、ジョージ・クルーニーが主演したことによって、重い空気はなく、ありきたりな話にはなっていません。



クルーニー扮するライアンは、アメリカ各地を出張して、多くの企業で解雇を通告する解雇宣告請負人。
大変冷酷な業務のように思えるも、ライアンはライアンなりに自分の仕事にプライドを持ち、「バックパックに詰め込む人生」をテーマに講演も行っている。

彼には夢があった。
アメリカン航空のマイルを貯めること。
世界中で数人しかいない1000万マイル達成者を目指し、目下邁進中。

多くのカードを所持し、飛行機はファーストクラス。宿泊するホテルは会員扱い。
ライアンにとっては、全てがステイタスだった。

ある日ライアンは会員クラブで、同じく出張で世界中を飛び回る魅力的な女性、アレックスと出会う。
お互い気軽な関係を求めた二人は、出張の合間に情事を重ねる。


そんな中、ライアンの職場に新人ナタリーが入社してくる。
大学を卒業したばかりのナタリーは、会社の効率化のもと、出張の削減、オンラインでの解雇面接を提言する。
ライアンは猛反対、面接のシミュレーションを通して、ナタリーの出鼻を挫く。
上司はライアンに、次からの出張にナタリーを同行させ、ライアンの仕事ぶりを勉強するように、との命を下す。



解雇宣告人って、いるんですねぇ。
普通の人じゃ絶対務まらないと思います。
若い新入社員なら尚更無理だと思います。
こういう仕事って、それなりに人生経験がある人でないとね。


社員を雇い入れるのって、これからその人に、うちの職場で頑張って欲しい、会社を盛り上げて欲しい、という期待と希望があるじゃないですか。

解雇を通告する、って、どんな気持ちなんだろう。
その後色んなゴタゴタが起きるのを想定して、様々な手を打っておかなければならない。
対面で行うより、オンラインで宣告した方が効率はいいし、作業も早いかも知れない。

だけど、相手と直に顔を合わせずに、相手を悪夢に陥れるというのは、一種の逃げのようも思えるし、それでは相手の気持ちなんか汲み取れないんじゃないですかね。
ライアンは、解雇を宣告する際も、しっかりと相手の背景を調べて読み取り、気持ちに寄り添っているんです。
J.K.シモンズのシーンが、特にそれをよく表しています。
解雇をされるということは、一度立ち止まって、人生を見つめ直すチャンス。


ライアンにも、その人生を見つめ直す転機が訪れます。
しかし、全てが上手くいくわけではない。
これはきっと、誰が悪い訳でもないと思うんです。
僕はアレックスも責められないと思います。
お互い合意の上での気楽な関係だったはずなんだから。
それでも、一抹の期待をしてしまったんだけど。



そしてもう一人、人生を見つめ直すチャンスを与えられたのがナタリー。
彼女はライアンとの出張を経て、確かに成長していくように見えます。
しかし程なく、ある一件がきっかけで、ナタリーは自ら会社にメールで辞表を提出します。
ナタリーの入社のきっかけも、彼氏を追いかけてきたから、という漠然としたもの。
きっと入社した時は、意気揚々と張り切っていたでしょう。

だけど実際の現場は、自分が想像していた以上に過酷なもの。
こんな仕事をする為に入社した訳じゃないのに。
現実と理想の乖離。

ナタリーが辞表を出した気持ちは痛い程分かります。
きっと全ての原因は彼女ではない。
だけど、ナタリーはそうは思えなかった。
それが普通の人の心情だし、僕はナタリーの選択に、少しホッとしました。
彼女はプロになるには若過ぎたのだと思います。



プロに徹することは情けを捨てることではない。
ライアンの眼差しには、相手のどんな反応も受け入れるだけの温かみがあります。
こういう宣告をする人ほど、包容力が必要なんじゃないかな。
映画の最初、ジョージ・クルーニーを見た時、こんな役に、こんな優しいマスクの人でいいのかなぁと思ったんですが、徐々にこれはクルーニーだからこそ成立したキャラクターだと思い直しました。


映画スターって、誰を思い浮かべますか。
トム・クルーズ。ブラッド・ピット。ジョニー・デップ。レオナルド・ディカプリオ。

どなたもカリスマ性があって、映画に登場した途端にパッと観客の目を惹きつけますよね。
その人が主演しているだけで、観たくなってしまう、お客さんを呼べるのがスター。

僕も上に挙げたどなたの作品も観ていますが、テーマに関わらず、必ず作品を観たいと思える人はおらず。もともと主役より脇役に目がいくもので…。

僕にとってスターって誰かなぁと考えたら、辿り着いたのがジョージ・クルーニーでした。
連続ドラマ「ER」の頃から結構作品を観ていて、普段あまり惹かれないテーマの作品でも、この人が出てるなら観たいなぁと思えるのはクルーニーでしたね。
でもクルーニーの作品も、久しぶりに見た気がします。


ライアンと関係を持つアレックスに、ヴェラ・ファーミガ。
手の内を全て見せきらない、謎めいた魅力が、また良かったです。
こういうキャラクターって、振り返ると憎らしく思えるんだけど、アレックスに関してはどうしてもそんな感情は抱けず。
脚本の巧さと、キャラクターへの眼差しに優しさがあったからなんでしょうね。

まだまだひよっこのナタリーを演じるのが、アナ・ケンドリック。
彼女の好演と、良識の揺らぎが、解雇宣告人という仕事と、観客の間の隔たりを埋めていきます。
失恋の末のカラオケ熱唱が可愛い。
しかも「Time After Time」って(笑)。


作中、ライアンが夢の1000万マイルを達成するシーンがあって、そこでアメリカン航空の機長が登場するんですが、演じたのが、サム・エリオット。
凄い、本当に絵になる‼︎
貫禄というか、もうグッと引き締まるんですよ。
僕このシーンが一番好きだったなぁ。


見てて思ったんですけど、ライアンが「1000万マイルの夢」を見始めたのって、解雇宣告人を始めてからなのかな。
人を解雇する為にアメリカ中を飛び回る。
ライアンも解雇宣告という仕事に、最初は疑問を持っていたのじゃないかな、と考えたんです。

どこかで自分を肯定できるような、明るい目標が欲しかったんじゃないかな、と。

それが、マイルを貯めるという目標になり、やがてライアンも職業倫理を身につけていく。
僕はこんな背景をライアンのキャラクターに感じました。

なだけに、あのラスト、僕はいまいち掴みきれず。それこそ、雲を掴むような話。
ライアンはフライト表示盤を見ながら、何を思ったんだろうかな。



今年はコロナの流行で、仕事が大変な方も大勢いらっしゃると思います。
仕事をしたくても、仕事自体減らされる方だったり、慣れないリモート勤務に困惑される方だったり。
うちの子供達も、学校は始まりましたけど、少し前までオンライン授業を取り入れてて、あれは先生も子供達も大変だったと思います。うちの子なんか引っ込み思案だから、分からないところも質問できなくて、分からないまま授業終わっちゃってた。
新しい生活様式を受け入れていくのは、楽じゃないですよね。

ありがたいことに、自分の職場は仕事が確保されていて、外出自粛期間中も、特に変わることなく出勤できていました。
但し、電車通勤をすることになるし、高齢者の身近で仕事をするので、職場に絶対にウィルスを持ち込めない。

だけど仕事があるだけ恵まれていたので、出来る限りの対策を取って、自分の不注意とかで罹患しないよう、気をつけて過ごしました。
人混みは避けたし、映画館に通うのも、自粛要請が出る少し前から控えるようにしました。
おかげで、今のところ体調を崩すこともなく過ごせています。
いくら自分で気をつけていても、不可抗力で罹患してしまうこともあるんでしょうけど…。

ようやく自粛要請も解除され、映画館も再び営業を開始できているようですね。
僕も早く劇場に駆け付けたいです。
劇場も色々な対策を取って、感染防止をして下さっていると思います。

ただ、僕はまだしばらくは劇場には戻れないかな。
どこで線を引くかは考え方次第だとは思うのですが、もうしばらくは我慢するつもりです。
一番は、「テネット」までには劇場に帰りたい。早く安心して劇場で映画を楽しめる日が戻ってきて欲しいです。
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