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大統領の陰謀のtakのレビュー・感想・評価

大統領の陰謀(1976年製作の映画)
3.7
 ウォーターゲート事件の内幕を暴いたワシントンポスト記者の活躍を描いた社会派アラン・J・パクラ監督作。教科書的に事件のことは知っていても、単に政治家が絡む事件というだけでなく、ホワイトハウスが首謀者となった事件だけに、その圧力や取材妨害はもちろん、最後に二人の命の危険までささやかれ始め、いかに危険な取材だったのかが伝わってきた。また、ベテランの政治部記者が担当したのでもなく、入社数ヶ月の記者がそれを担当していたということにも驚かされた。ダスティン・ホフマンが演じた記者の、しつこい取材攻勢も今なら問題視されるところかもしれないが、それも取材にかける執念故のことだ。しかし取材された側も誰が漏らしたことなのかを詮索されることになるだろうし、そのギリギリの駆け引きが映画全体の緊張感を高めてくれる。

 助演賞を受賞したジェーソン・ロバーツは編集長役。若い二人の記者を信じて、担当を変えることもなく、アドバイスしたり、二人をかばったりと、厳しいながらも理解ある上司を演じている。クライマックスで二人に話す、「オレたちが守らなきゃいけないものは一つ。合衆国憲法修正第一条だ。取材の自由、国民の自由だ。」という台詞は、彼の信念を強く印象づけて実にかっこいい。

 政治サスペンスとしての面白さはもちろんあるのだが、何よりも全体的な印象はとにかく地味。徹底して淡々と二人の行動を追っていく演出は、まるでドキュメンタリー映画のようだ。感情がほとばしるような場面もなければ、簿記係の女性を問い詰めるスリリングなエピソードを除いて取材される側もほぼ電話で登場するだけ。ミステリー映画のような楽しさはない。

そして結末は、記事の原稿を作成するタイプ文字で表現されるという、淡泊さ。エンターテイメントな面白さをこの映画に求めると、裏切られることだろう。だがこの事件自体が、大統領が辞任するに至るアメリカにとっては前代未聞の大事件だし、しかも事件から数年しか経過しておらず関係者への配慮があったことは間違いないだろう。それだけに冷静に真実を見極めようとする演出なのだ。70年代の映画って、ほんとに観客に媚びてない。その雰囲気が時々無性に観たくさせる。
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