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プレシャスのAKのレビュー・感想・評価

プレシャス(2009年製作の映画)
3.0
詩人として活躍していたサファイアが初めて著した1996年の小説が原作。貧困層ハーレムに住む16歳の黒人少女プレシャスは、母親からは生活保護のダシにされ、幼少期から父親から性的虐待を受けており、16歳までに子供を二人出産、その長女は先天的な障害を持ち、自身は読み書きさえできないまま退学処分となる──プレシャスを取り巻くあまりにタフな日常は大きな話題を呼び、2009年公開の本作は2010年のアカデミー賞で脚色賞と助演女優賞を獲得した。

実を言えばこれ以降の2010年代、黒人による文学作品を原作とした映画で話題となったものはほとんどない。アカデミー賞を取った『ムーンライト』は映画脚本であり、『それでも夜は明ける』は回想記が基だ。2010年代のブラック・ムービーはN.W.A、ジャッキー・ブラウン、マイルス・デイヴィス、ジェームズ・ブラウンそしてキング牧師と言った黒人文化に多大な貢献を果たしてきた英雄/偉人たちの伝記映画が数多く撮られた10年として後年に記憶されることとなるだろう。

これこそがアメリカにおける黒人の苦境を物語っている。広がるばかりの経済格差、国を分断するヘイトクライムの多発、オバマ大統領の退陣と人種差別主義者の勝利──映画はそのメディアの性質上、小説よりも“早く効く”。2010年代、黒人やマイノリティがスクリーンの上に求めたのは、悩めるフィクションの人物ではなく、白人に勝利した実在の英雄たちだった。もちろん2010年代を通して偉大なる黒人文学は多く生まれたが、それらが映画化されるのは──現状を顧みるに──まだ先になるだろう。

追記: 急いで付け加えなければならないが、本作はウェルフェアクイーン言説を再生産する危険性もあわせもったステレオタイプの映画でもある。(あとマライア・キャリーとレニー・クラヴィッツが出てます)
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