netfilms

プレシャスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

プレシャス(2009年製作の映画)
3.7
 1987年、16歳の少女クレアリース・プレシャス・ジョーンズ(ガボレイ・シディベ)は学校に通いながら、生活保護の母親の面倒を見ていた。彼女はいま、自分の父親との子供を妊娠しており、12歳の時にも同じく父親との子供を生んでいる。その12歳の時の子供は、知的障害を持って生まれていた。学校に妊娠がばれ、フリー・スクールに送られた彼女は、そこで女性教師レイン(ポーラ・パットン)と運命的な出会いを果たす。今作は黒人女性の自立を描いた物語である。冒頭彼女の置かれた境遇はあまりにも酷く、何度も観るのを辞めようと思うほどだった。学校では壮絶にいじめられ、家に帰れば虐待され、その挙げ句には実の父親にレイプされる。典型的な駄目な両親の家庭に育ちながら、彼女は愚直なまでに生きる希望を捨てていない。周りの大人がどれだけ絶望的な人間ばかりであろうが、どこかに救いがあるはずだともがき続ける。そんな彼女の前に2人のメンターが現れる。1人は彼女の通うフリー・スクールの先生であるポーラ・パットンであり、もう1人はソーシャル・ワーカーとして働くマライア・キャリーであろう。彼女たちは主人公の境遇に同情しながら、彼女に歩むべき道を教えてくれる。

 「プレシャス」と呼ばれる人間は前作から引き続き登場する。前作『サイレンサー』では主人公を助ける闇医者の恋人の看護師として出てきたが、今作では見事に主人公の座を射止めている。アメリカにおける識字率の高さは日本とほぼ同水準(99%)と言われているものの、一説によれば非識字率は21%という驚きのデータがある。これは国民のうちの4200万人が単純に読み書きが出来ない計算になる。アメリカという国はとにかく広い。住む場所の環境によっては満足な勉強も出来ずに大人になり、その後は仕事にありつくこともままならず、生活保護者になってしまう。この映画の致命的な欠点として、あまりにも全ての出来事が出来過ぎている点が挙げられる。主人公とメンターとなる2人の女性の間に、あまりにも葛藤がない。またこの映画の背景に流れる時間が1987年の出来事であるという点も、緻密に再現出来ているとは言い難い。87年当時のハーレムと言えば今とはケタ違いに治安が悪く、NYの地下鉄や街角の至る所にはスプレー・アートが書かれており、年中人が死ぬような場所だった。それが共和党のジュリアーニ市長の時代になり、街の落書きは一掃され治安も徐々に改善されていった。スパイク・リーもジョン・シングルトンもこの辺りのニューヨークの時代の空気感を上手く吸い込んで映画を撮っていたが、今作からはそういう87年の時代の空気があまり感じられない。