垂直落下式サミング

星のない男の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

星のない男(1955年製作の映画)
4.2
カーク・ダグラスが、流れ者のカウボーイを演じる西部劇。タイトルにある「星」とは、誰もが行くべき正しい道を教える星を持っているが、主人公は自分の星を見失っており、牛が牧草を求めて広野を移動するように、どこへでも自由に流離うってことらしい。
無職なカーク・ダグラスは、酒場でバンジョーを弾きながら調子よく歌う。そんで、衣装がはち切れそうな逆三角形。中盤では、かつての事故で傷だらけになったという上半身も披露して、鉄条網がいかに非人道的な発明なのかを印象付けるのに一役買っていた。
スタントはかなり激しい。馬を駆るカウボーイたちが牛の群れと並走する場面など、かなり迫力があった。取っ組み合いのケンカはしょっちゅうだし、ロープを引っかけられてボコボコにリンチされるなどしていて、牧童とはタフガイの世界なのだということを強く意識させる。
そんななかで、拳銃を撃ちながら曲芸をみせたり、突っ掛かってきた奴のケツを蹴りあげたりと、語りはおおらかなユーモアに溢れている。
カーク・ダグラスが、アクロバットな曲芸ガンプレイを披露するシーンが有名だと言う。そこでは、「俺はこんなことも出来んだぜ」と得意気に自慢しておいてから、「こんなもんはお遊びだ」と本当の殺し合いでは役に立たないぞと現実的な助言をかましてくる。茶目っ気と玄人っぽさの両方を違和感なく醸し出しており、なにやら影のある風来坊な主人公は、なかなか興味深いキャラクターに仕上がっていた。
雇い主の女性も、なかなかのタマだった。以前から牧農たちのあいだで暗黙の取り決めによって共有されていた土地を、東部流にインベージョンしていくなど、手段を選ばない野心家のやり口は西部劇にしてはビジネスマン然としすぎている。
農地を鉄条網で囲うことによって牧草を独占しようとするジジイ、もしくは一番最初に出てきたオラついた保安官か、ナイフで列車の乗務員を殺したならず者が悪者になるのかと思いきや、次第に女オーナーのやり方についていけなくなって、こちらと敵対していくのは必然と言うことか。おおらかに物語が進行していくため、いい意味でストーリーの先が読めない。昔の映画あるある。
ダグラスは、女オーナーの入浴シーンをみて童貞っぽくキョドってみせるのだけど、風来坊にはそこらへんの酒場や売春宿に何人も女がいると相場が決まってるし、序盤から出てくるホテルの女将のほうがアウトローの生態をよく理解していた。
女将は、かつての仲間にボコボコにされてしまったダグラスに拳銃を手渡し「かましといで!」と一喝。こちらの組み合わせのほうが、カップリング厨としては感興をそそられる。