みおこし

マルタの鷹のみおこしのレビュー・感想・評価

マルタの鷹(1941年製作の映画)
3.4
ジョン・ヒューストン監督とハンフリー・ボガートの名前を一躍世に知らしめた、元祖フィルム・ノワールの傑作。原作は、アメリカを代表する推理小説家のひとりであるダシール・ハメットの同名作。知らなかったのですが、実はワーナー・ブラザースで3回も映画化されていて、こちらのボギーver.は3作目なんだそうです。サム・スペード役はあまりに彼のイメージが強すぎる…!

私立探偵のサムは、とあるサーズビーという男の元へ家出をした妹を連れ戻してほしいという女性からの依頼を受け、相棒のマイルズに尾行させるが、翌日マイルズもサーズビーも遺体となって見つかる。警察や不審な男など様々な人物がサムに疑いの目を向け近づいてくるが、サムはその過程で、この事件の背景に“マルタの鷹”と称される大変な価値を持つ鳥の彫像があることを悟り…。

推理小説あるあるとは思いますが、名前と顔がなかなか一致せず、何回も巻き戻して「この人は誰で、何を求めているんだっけ」と確認をしてしまいました…。とはいえ、サムを中心に、“鷹”を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられる緻密なストーリーは今見ても迫力満点。ただ、ラストの展開は正直読めてしまったのが本音で、おそらく本作以降に公開された様々なミステリー映画のおかげでトリックを見破る耐性が身についたのかなと勝手に妄想(笑)。
個人的にはストーリーよりも、ボギー扮するこのサム・スペード(名前の響きが既にカッコいい!)という私立探偵の人となりが、当時としては画期的で魅力あふれている点が、名作たる所以なのかと推察しています。武骨で多くを語らないうえに、目的の達成のためには手段もいとわない。そして男だろうが女だろうが、悪を成敗するためならそこに一切の慈悲はない…。後の『ダーティハリー』シリーズや、『フレンチ・コネクション』などにも通ずる、まさに“ハードボイルド”なアンチヒーローのイメージは、本作で形成されたのだと容易に想像がつきます。カイロの胸ぐらをつかむシーンとか、あの凄みは当時のボギーにしか出せないタフガイっぷり。それまでの美男スターとは決定的に違う、独特な魅力のボギーがここまで時代を超えたアイコンになりえたのは、このサム役あってこそ!
他にも事件のカギを握る謎の女“ファム・ファタール”的な役回りに当たるメアリー・アスター、そしていかにも怪し~い印象たっぷりなピーター・ローレ(笑)の配役も見事で、それぞれのキャストの熱演の相乗効果もあって、これだけ印象的な映画が完成したんだろうなあ。

どんな事件も「カネ」か「女」が絡みがちですが、この“鷹”をめぐっての非道な争いの結果何人もの命が失われ、さらにそれぞれの人生の歯車が狂うことになったことを受け、言葉にならない感情を抱いているであろうサムの後ろ姿のショットに心打たれるエンディングでした。
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