優しいアロエ

ロッキーの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ロッキー(1976年製作の映画)
4.4
【過去鑑賞作品 73】

〈ただ、倒れなければいい〉  

 ロッキー・バルボア。ひいては自身の境遇を昇華したシルベスター・スタローン。彼らは今もなお、世界中で愛されつづけている。その要因は、なにも物語の優しさやスタローンの愛着ある顔つきだけではないだろう。ロッキーを見守る「周囲の人間の視線」こそ、本作が愛される理由を紐解くカギなのではないだろうか。

 たとえば、本作のボクシングシーンは、そのほとんどがロープ越し、あるいはTV中継のような斜め上からのショットで構成されている。『レイジング・ブル』と比べればその違いは一目瞭然だ。また、有名な「Gonna Fly Now」の流れる熱い特訓シーンも、トレーナーや道ゆく人がロッキーに視線を注ぐところを映す。試合のときも、実況者や観客、TVで応援する人たちの眼差しにカットが割かれている。

 これにより、本作は「ロッキー」という復活の象徴を共感と没入の対象にするだけでなく、彼を一体となって育み、応援しようという雰囲気をつくっているように感じる。

 人生はなかなかしんどい。死にたくても死にきれず、ロッキーのようにどん底をさまよう時期というのは多くの人が経験済みなはずだ。そんな人間たちがまた一歩踏み出すためのシンボルとして、本作はロッキーを据えたかった。そこで「周囲の人間の視線」を豊富に映すことによって、みんなが彼に勇気をもらう構図をつくったのではないだろうか。

 バキバキに主観的な物語のほうが好みではあるのだが、本作のような「みんなのロッキー」とでも云える作品だって時には悪くない。私はどうしてもダメなとき、そんな「みんなのロッキー」を体内に取り込むために、生卵をコップで丸呑みし、近所の階段を駆け上がるのである。
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