キューブ

無言歌のキューブのレビュー・感想・評価

無言歌(2010年製作の映画)
4.5
 とても衝撃的な作品だ。あまり歴史の中で日の目を見なかった事件に焦点を当てている、ということもある。だが何よりも収容所での男達の生活の悲惨さがすさまじい。
 当時中国は飢饉に襲われていたようで、収容所の人々はただでさえ少ない食事を減らされ満足に動くことも出来ない。腹を満たすために草の実を食べ、ネズミを煮て、人が吐いた物さえも食べる。挙げ句の果てには死体をも食べる。究極の極限状態なのだ。そんなときに温かい麺をすする所長には怒りを覚える。
 この通り、「無言歌」が観客に与える衝撃は口では言い表せない物がある。だが欠点もある。映画はドキュメンタリータッチの乾いた映像を淡々と映し出していくのだが、本当に淡々としているために登場人物達の思いを最後まで捉えることが出来ない。あくまでも第三者の視点なのだ。あらすじには「ある女の訪れが男達に変化をもたらす」と書いてあるが、これも映画の中の1エピソードにすぎない(唯一の「変化」はこれだけかもしれないが)。人の心を揺さぶるにはもっと映画的な「事件」を盛り込むべきだった。
 とはいえ、この収容所の生活がすでに「事件」でありあまりにも異常なのだ。僕が一番思い出すのは収容所の朝のシーン。毎回、管理人らが死者の有無を確認しに来る。これ以上に狂った日常などあり得るのだろうか。
 今一度、「自由」の意義を問いただす必見の作品である。
(12年1月8日 映画館 4.5点)
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