emily

内なる傷痕のemilyのレビュー・感想・評価

内なる傷痕(1970年製作の映画)
4.3
女ニコと男フィリップ・ガレルが砂漠の中歩き続ける。男は言葉を発することはなく、女は悲しみにあれくれている。少年が女を馬に乗せ引っ張り、突如裸の男が現れる。火を子供に渡したり、女に話しかけたりし、やがて旅立つ。女はそこに残り言葉を発し続ける。

物語という物語はなく幻想的な砂漠、荒地、ハイトーンの色彩や、ざらついた色彩の中歩いても歩いてもニコの元に辿り着いてしまうガレルを側面から捉えるカメラから始まる。長回し中心で、ジワリと近寄ってくる、離れていく、たっぷり時間をかけて歩く時間を見せる。これは2人の純愛をイメージ像の断片に乗せた私的かつ創造力を掻き立てるまさに観客それぞれの映画である。

離れてはくっついてを繰り返し、苦しみが続くが愛という呪縛に囚われてる2人はそこから離れることができない。たとえそれがお互いを傷つける結果しか生まないとしても、神話的かつ、宗教的な聖なる物と崇め、美しさと残酷の狭間で危うい綱渡りをしながら、ゆっくりと描写されていく。

ニコの歌声が浮遊感を煽り、突き刺さるような歌詞が心を抉ってくる。言葉の響きと自然の響きが異次元の空間に浮かび上がり、複数の言語と出会う人との距離感、ふたりの世界の空虚に居ながら深く求めもがき、それでも何も変わらず同じことを繰り返していく。どこまでも永遠に続く自然美がどこまでも残酷に心を抉り続ける。
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