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セックスと嘘とビデオテープのRのレビュー・感想・評価

4.5
最愛の映画監督のひとり、ソダーバーグの長編1作目ということで、まだ全然いまほど洗練されてなくて、気になる欠点もありつつ、しかしながら、いくつかの欠点がまた魅力でもあって、かなりおもしろい。公開当時はなかなか衝撃的な作品だったんだろうなと思うけど、いま見ても引き込まれる要素が多い。そういった要素のひとつとして、まず、全体的に人の私生活を覗き見している感覚があること。ジェイムズスペイダーがぽやんとした不思議ちゃんの空気をまとい、女性に親近感を持たせて、するりとプライバシーに深く立ち入れるという特技をいかして、他の誰にも語らない女性の本音に迫っていくのが、覗き見感覚を強めている。そのため、全体的に心理的なにおいがぷんぷんする作品になっている。もうひとつは、人物たちがプライバシーをディープに語るとき、ビデオカメラを介在させる点。まさにこれが本作のテーマだと思うんやけど、これはいくつかのおもしろい効果を生んでいる。カメラを通すことで、語り手・聴き手の距離感が微妙に変化し、より間接的な感覚を与えられることによって、語り手にとって自分の内面をさらけ出しやすくなる。また、ビデオカメラに本音を録画することで、登場人物の感情や、人間関係の在り方がそれに大いに影響されていくのです。これぞ、まさにビデオカメラの魔力だな、と思って見てたんやけど、ネット社会となり、私的なものを含めてあらゆるカメラ映像が、瞬時にネットにアップできる現在では、これは既にあり得ない感覚なのかなーと。ビッグブラザーではなく、実は大衆が個人個人を監視する社会になってきているなぁと見ながら感じたりした。あと、ビデオカメラの映像を使うことで、映画全体の時制が巧みに行きつ戻りつするので、語り口としても非常におもしろい。で、そこに、ジェイムズスペイダーの情けないインポ事情というスケールの小さい話と、もうすこし大きな、アンディマクダウエルが、いかにして、他者の視線を気にすること、女としてかわいがられたいと望むこと、そして、他者に依存して生きることをやめ、自分らしく、自立した女性として生きることを選択するようになったかを描く、フェミニズム的な側面が加わって、絶妙なバランスを持った映画になっている。アンディマクダウエルの見応えのある独特な美貌、ジェイムズスペイダーのキモかわいさ、若きピーターギャラガーのエロかわいさ、妹の淫乱ビッチさ、テーブルクロスみたいなサンドレスの悲哀、心に染み込んでくるような不穏なサウンドなどなど、見応え抜群。その後のソダーバーグ作品の完成度とインパクトには至ってないのではあるが、サラッとしながらもいろいろ尖ったものを感じさせ、これは傑作としか言いようがございません。
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