ほーりー

必死の逃亡者のほーりーのレビュー・感想・評価

必死の逃亡者(1955年製作の映画)
4.8
【自転車はちゃんと片付けましょう】

『必死の逃亡者』はテレビ東京の20世紀名作シネマ枠で初めて観た作品で、まだその頃中学生だったけれどその面白さにぐいぐい引き込まれた。

確か『必死の逃亡者』の放送の翌日が『お熱いのがお好き』だったと思う。

何故こんなことを覚えているかというと新聞のテレビ欄に並んで書いてあった両映画のあらすじを僕が取り違えて、「『必死の逃亡者』ギャングの殺害現場を目撃したバンドマン二人が女装して女性専用バンドに潜り込んで逃走する……』と読んで、「そりゃあ必死だなぁ」と勘違いしたバカな思い出があるからである。

さて実際のあらすじはご存知の通り、平凡なある家庭に三人の脱獄囚が籠城し、妻や子が人質に捕られ、警察にも通報ができない中、ひとり孤独な戦いを続ける父親の物語である。

脱獄囚のリーダー扮するハンフリー・ボガートと一家を守る父役のフレドリック・マーチとの攻防戦はまさに火花を散らすかのようで、展開が最後まで目が離せない。

まずは主演二人の存在感が凄い。ボガートは久しぶりの悪役だが、凄味のきいた切れ者ギャングを貫禄たっぷりに演じている。

そして後半につれて絶対的に優位だったボガートの歯車が徐々に狂っていくのだが、ふと見せる表情から追い詰められた男の悲哀が感じられた。

対してフレドリック・マーチも圧倒的な不利な状況でも、常に冷静さを失わず、反撃の機会をうかがう姿は、まさに"知将"といった趣である。

その原動力となっているのは家族を最後まで守ろうとする強い責任感である。クライマックス、ボガートに「でていけ、ここは私の家だ」と啖呵をきる場面は、家長は斯くあるべしと感じた。

ウィリアム・ワイラーの演出は、脇のキャラクターに至るまで、個性の味付けがしっかりしており、ボガートを追い詰める刑事、マーチの家族、娘の婚約者、ボガートと共に籠城する脱獄犯たち(一人は弟)が、各々異なる行動を取ることによって、さらに予測不可能な展開になっている。

かつその展開は、無駄が一切省かれており、物語が発散することがない。最後の手招きする場面まで綿密な計算がされている。

一階の電話を二階の内線電話から盗み聞きするシーンをワンカットで撮るなど、吹き抜けのある階段を活用した演出も印象深く、さすが「階段映画」の巨匠ワイラーといった感があった。

■映画 DATA==========================
監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:ジョセフ・ヘイズ
製作:ウィリアム・ワイラー
音楽:ゲイル・キュービック
撮影:リー・ガームス
公開:1955年10月5日(米)/1956年3月16日(日)
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