こたつむり

必死の逃亡者のこたつむりのレビュー・感想・評価

必死の逃亡者(1955年製作の映画)
4.0
★ 自転車が倒れていたばかりに生まれた悲劇

さすが、アカデミー監督賞最多受賞者。
と唸りたくなるほどにウィリアム・ワイラー監督の手腕が光る物語でした。

何しろ、1955年の作品ですからね。
現代の視点で観れば生ぬるい…なんて先入観を覆すほどにピリピリとした空気。最後の最後まで気が抜けない展開なのです。

物語としては「脱獄囚が民家に立てこもる」というサスペンス。脱獄囚にハンフリー・ボガード、一家の主人にフレドリック・マーチを据え、圧倒的な存在感で盛り上げます。

しかも、脱獄囚である彼は冷静沈着。
一手先を読む慎重さを見せるため、不用意に動くことは出来ません。それでいて、奥底には復讐に拘る“黒い炎”も見えるため、暴発する恐怖も残ります。

また、彼と一緒に脱獄した男が“考えるよりも先に手が出るタイプ”であるのも緊張感を高めます。理屈で動かないから先が読めないのですね。冷静なタイプと感情優先のタイプ。この組み合わせは厄介です。

唯一の救いは一家の主人も落ち着いていること。取り乱す家族たちを横目に「どうしたら最善になるのか…」を想定した言動ゆえに無駄がなく、緊張感は弛みません。もうね。彼らの間に流れる“大気が歪むほどの熱量”は圧倒的。

また、脱獄囚を捜す警察側も同じ。
囚人確保だけではなく民間人のことを思う警部や、面子しか考えない保安官など、血が通った人物造形のため、シナリオの都合で動いている感がないのです。

だから、基本的には誰もが自分勝手。
それが物語の方向性を容易に予測させず、また「おまえ、余計なことをするなよ」と思わず口にするほどに焦燥感を煽り、一挙手一投足が見逃せなくなるのです。最高ですな。

まあ、そんなわけで。
1990年にリメイクされるほどの傑作。
無理も無駄もない筋肉質な作風に言葉もなく。
それでいて格別の余韻を残してくれる物語でした。

今のところ、ウィリアム・ワイラー監督にハズレ無し。うしし。次は何を観よう。
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