コータ

男はつらいよ 純情篇のコータのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 純情篇(1971年製作の映画)
5.0
【ATB第4位】
〈コンクリートの渡り鳥〉
ファンの間で高い人気を誇る第6作目。マドンナは大映の看板女優・若尾文子。

五島列島を訪れた寅さんと、ある父娘との交流を描いた前半パート。日本映画史を代表する2人の喜劇俳優・森繁久彌と渥美清が望郷について語るくだりは圧巻。

後半は、柴又に帰った寅さんが若尾文子演じるマドンナに一目惚れ。いつもの恋愛騒動へと流れていく。そして何といっても終盤の柴又駅での別れの場面である。定住への憧れ、望郷の念。それでも旅を続けてしまう寅さんの胸中を表現した場面は実に感動的で、山田洋次監督の演出も見事に冴えていた。


シリーズ第6作目にして成熟した山田組の映画演出と、渥美清らキャスト陣の確かな演技力によって、非の打ち所なく作り込まれた笑いと感動。芸術美すら感じられる喜劇となっている。

博の独立騒動も面白い。
 博「人生は賭けだよ」
 寅「お前もフーケン主義者だよ。今時、人情とかさ、蜂の頭だとかさ、蟻のオチ◯チンなんてな、古いんだよ。」
 寅「お前もムキになって社長になりたがることねぇぞ。せいぜい行ってタコ止まり!働きゃ、働くほど、こうやって苦労背負い込んでるんだから」

哀しくもおかしな喜劇的要素がふんだんに詰め込まれた、息つく間もない90分間。本作『純情篇』、シリーズ中でも特に過小評価されている作品なのでは。シリーズ初期を代表する集大成的傑作である。


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恋愛、労働、望郷、継承、渡世人の辛さ。
シリーズ50作総てを御覧下さい。
50本で一つの物語なのです。

▪️映画『男はつらいよ』
テキ屋稼業の寅さんは、日本全国を気ままに旅し、毎回各地で出会ったマドンナに恋をする。その恋愛模様と、地元・葛飾柴又での騒動が滑稽に描かれる。マドンナとの失恋を経て再び寅さんが旅に出る場面で喜劇は終幕する。寅次郎の恋愛を通して、目まぐるしく変化する昭和の日本を、日本の人々を写した喜劇シリーズ。
 渥美清さんによる小気味良い啖呵売や、毎回登場する豪華なマドンナ・ゲスト陣、日本各地の美しい風景も見どころである。
 シリーズ全作がシネマスコープで撮影されている点も、このホームドラマを映画たらしめているポイントと言える。横に長いシネスコ画面に映る日本各地の絶景は迫力満点であった。


▪️漂泊のフーテン男
「フーテンの寅」こと車寅次郎。定住と地道な暮らしを夢見る時もある。しかし又しても旅に出る。渡り鳥を自認する寅さんは、いつかは止まり木を離れ、空へ羽ばたくはずなのである。旅烏の宿命ともいうべきか。


▪️葛飾柴又の人々
漂泊の暮らしを続ける寅さんの止まり木である、生まれ故郷・葛飾柴又。帝釈天参道に店舗を構える団子屋「とらや」が彼の帰る場所。
○諏訪さくら(倍賞千恵子)
○諏訪博(前田吟)
○諏訪満男(吉岡秀隆、中村はやと)
○車つね<おばちゃん>(三崎千恵子)
○車竜造<おいちゃん>(森川信、松村達雄、下條正巳)
○桂梅太郎<タコ社長>(太宰久雄)
○御前様(笠智衆)

「お兄ちゃん」「兄さん」「伯父さん」「寅ちゃん」「寅」「寅さん」。
この人たちがいるから、いつでも帰る場所があるから、寅さんもフーテン暮らしができている。


▪️50年50作
1969年に第1作目『男はつらいよ』が公開。シリーズ映画としては、作品数で世界最多を誇り、ギネスブックにも認定されている。第1作公開から50周年を迎える2019年には第50作目『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開された。
高度経済成長、バブル崩壊、21世紀一一。『男はつらいよ』は時代を越えて日本中に笑いと感動を与え続けている。


▪️『男はつらいよ』厳選 名台詞集
「額に汗して、油まみれになって働く人と、いい格好してブラブラしている人とどっちが偉いと思うの」
(さくら) 第5作『望郷篇』

「お前もフーケン主義者だよ。今時、人情とかさ、蜂の頭だとかさ、蟻のオチンチンなんてな古いんだよ」
(寅) 第6作『純情篇』

「おのれの愚かさに気がついた人間は、もう愚かとは言いません」
(博) 第16作『葛飾立志篇』

「この人のためだったら命なんていらない、もう、死んじゃってもいい、そう思う。それが愛ってもんじゃないかい?」
(寅次郎) 第16作『葛飾立志篇』

「あぁ、生まれてきて良かったなって思うことが何べんかあるじゃない。そのために人間生きてんじゃねえか。そのうちお前にもそういう時が来るよ」
(寅次郎) 第39作『寅次郎物語』

「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ」
(寅次郎) 第43作『寅次郎の休日』

「寅さん」は、人生という長い道の上で、まっすぐに幸福の在り処を指し示してくれる道標の映画なのだ。

寅次郎の恋愛を通して、目まぐるしく変化する昭和の日本を、日本の人々を写した映画シリーズ。そこに日本映画史を代表する名優たちが彩りを加える。

何度も笑って、沢山のことを吸収できた。寅さんに出逢えて良かったと心から思う。
コータ

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