ゆん

バンビのゆんのレビュー・感想・評価

バンビ(1942年製作の映画)
5.0
とにかく異常なまでの「可愛らしさ」への執着に満ちた、奇跡のように尊い作品だ。
その奇跡は、およそこの作品世界には似つかわしくない、血の滲むような努力とか根性とか情熱といった泥臭いもので作られたものに違いない。

バンビの覚束ない足取りや大きな瞳、長い足の動きに魅了された私達は、バンビや森に住む動物達に悲しい出来事が起こらない事を祈りながら見守ることしかできない。そしてストーリーが進み見事に翻弄され、一喜一憂する。
可愛らしさというのは全てを超越してしまうものなのだろう。秀逸なストーリー展開や、深みのあるキャラクターなど小手先のものは、圧倒的かわいさの前で我々の心の中で補完できるものになってしまう。

命の輝きや自然の厳しさ素晴らしさを描いているが、その全てがリアリティーの一切無いフェイクだ。偽物の命に、大勢の人間が心血を注ぎ魂を吹き込んでいる。偽物でしかありえない異様な輝きが、創作姿勢を含めて目眩がするほど美しい。
健全な世界観を造り上げようとしすぎるあまり、嘘や毒にまみれているのがなんとも罪深い。成長し、ディズニー世界と違い現実では自分が世界の主人公ではなく、他人は常に自分を尊重し祝福してくれるものではない事を知った。薄汚い競争と生臭い欲望にまみれた世界にどれだけ絶望したか!それなのに、どうしたって美しい嘘に強く惹かれてしまうし、映画とは常に気持ちの良い願望を映し出すものであってほしいと願ってしまう。
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