うっちー

ビー・デビルのうっちーのレビュー・感想・評価

ビー・デビル(2010年製作の映画)
4.0
 なんとなくギドク監督作だと勘違いしていて、しかもとっても怖そうなので保留していた。意を決して見始めたら……なんという面白さ! DVDや配信での配信だと途中で一時停止してしまうケースが多いんだけど、今作はノンストップで観てしまった。とても辛いんだけど、なぜそうなるのかの背景があり、ストーリーがしっかりしているのだ。

 ソウルで銀行勤めの、こ綺麗だが冷たいヘウォン、本土から離れた小さな島で因習にまみれて暮らす女、ボンナム。昔は仲良しの幼なじみだったふたりが、ヘウォンの帰島により再会。気のいいボンナムは何かとヘウォンの世話を焼くが、ヘウォンは変わらず、クールな態度を崩さない。しかし、ボンナムは、夫やその弟、姑に酷い仕打ちを受け、彼らをとりまく近隣の者たちからも蔑まれ、数々の虐待を見て見ぬふりにされていた。どんな目に遭っても我慢してきたボンナムだが、いちばん大事なものを汚され、壊されたことで、辛抱の糸が切れ、復讐の鬼となってゆく、というストーリー。

 最初はソウルのヘウォンの生活を追い、彼女が島に帰るのを機に、主役がボンナムに代わった様な場面展開。とにかく、この島の寂しさや異様で不気味な感じがゾクゾクさせる。また、ボンナムに加えられる虐待や侮辱行為のえげつなさやそれを見守ってしまうその他大勢のおばさん方の態度にも、だんだん嫌悪感と怒りがこみ上げてくる。特に姑役のおばあさんの憎らしい演技たるや半端ない。また、年がら年中セックスのことを考えていそうなぺ・ソンウ演じる義理の弟の気味の悪い表情が本当にヤバい。

 殺人鬼と化した以降のボンナムの体力と力の強さ、キレっぷりは、女性殺人鬼役としては歴史に残るのではないかと思うほど。演じるソ・ヨンヒの力量と女優魂の壮絶さよ! 最初に出てきた時、あの真っ白で乙姫さまのような美人女優が、顔を茶色に塗り、野生児のような仕草やみたくれになってるのにびっくりしたが、そんなことだけじゃなかった。凄まじい熱演です、ホント。

 終盤まで、容赦のない展開と暴力がつづくが、なぜだか目を背けたくはならなかった。不思議だ。かなり残酷な描写てんこ盛りなのに。たぶん、ボンナムというキャラクターの魅力なんだと思う。酷い目に遭っても、我慢して耐えてきた心の中に、真っ当なものを望む反骨心が残っていたから。ほんとに哀れな女性だと思う。

 ラストシーンの悲しさ、優しさが滲みる。とんでもなく凶暴だけど、女性をこそ惹きつける力のある快作。
うっちー

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