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戦争のはらわたの小のレビュー・感想・評価

戦争のはらわた(1977年製作の映画)
4.3
戦争映画が戦闘シーンの迫力、戦争の残酷さ・理不尽さ、人間ドラマの3つの要素を描くものだとすれば、とても良くできている映画ではないかと。

第二次世界大戦下の1941年から44年にかけての独ソ戦が舞台。ドイツ軍200万以上、ソ連軍1200万以上の死者が出たといわれる。敵はナチスドイツ軍という戦争映画が多い中、本作の主人公はドイツ軍の小隊長シュナイター。ソ連軍の猛攻で、撤退を余儀なくされていくドイツ軍の歩兵小隊の物語。

本物の戦車、スローモーションを多用した爆発や被弾のシーンでリアリティを追求し、ロシア少年兵・女性兵を描くことで戦争の残酷な部分を浮き彫りにしているけれど、お気に入りは人間ドラマ。

まず、シュタイナーがイイ。部隊を引っ張り、幾人もの仲間の窮地を救ってきた彼は、ドイツで特に戦功をあげた軍人に送られる鉄十字章を与えられている。彼は非人間的なナチスに反感を抱いていて、仕事は抜群にできるが組織には従わないというオジサン的あこがれのヒーロー。そのうえ人間味もあるからたまらない、ナイスなキャラクター。

そんな彼のいる戦場に、貴族でプライドだけは人一倍高いけれど、戦争に関しては無能なシュトランスキー大尉が赴任してくる。彼の狙いは鉄十字章の獲得。激戦地ならそれに見合う戦功があげられるだろうと、志願してやってきた。

仕事のできる反抗的な部下と仕事のできない出世欲の強い上司が反目しないはずがない。シュトランスキーは優秀なシュタイナーを利用するため、大佐に推薦して伍長から曹長へと昇進させる。しかし、シュタイナーは全然喜ばず、鉄十字章獲得に協力しろという態度のシュトランスキーに対しては嫌悪しかない。シュトランスキーはシュタイナーが自分の言うことを聞かないとわかると、彼の部隊を策略にかける。

私見だけど、人間は誰しも自分のことを実績以上にできる能力があると過大評価しがちだから、その潜在能力を理解してくれない上司に不満を持っている。それでも出世のため、あるいは会社で平穏にいるため面従腹背している。元事務次官の方が「私、座右の銘が『面従腹背』なんです」とぶっちゃけるのはどうかと思うけれど、彼の告発に溜飲を下げたサラリーマンのオジサンは私だけではないだろう。

言いたいことを口をつぐんで我慢し、日々ストレスをためている宮仕えのオジサンたち。だから上司に歯向かい、厳しい環境に追いやれても跳ね返すシュタイナーに自らの願望を投影し、のめり込んでしまう。

迫力の映像、反戦の精神、強い共感(オジサン対象)と3拍子揃ったこの映画。私がこれまで見てきた中では、小林正樹監督の『人間の條件』も同じような構造だと思うけれど、あちらは全6部で9時間31分の超大作。仕事帰りに見て、明日も頑張ろうと思うには、本作がちょうど良いかな。

●物語(50%×4.5):2.25
・ 面白い。人間ドラマが好き。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・シュタイナーを演じるジェームズ・コバーンがイイっす。ドイツ兵が英語なのは、やむを得ないかもしれないけれど、どうかと。

●映像、音、音楽(20%×4.0):0.80
・人間のすぐそばで爆発。大丈夫だったのかな?
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