ポルりん

怪談かさねが渕のポルりんのレビュー・感想・評価

怪談かさねが渕(1957年製作の映画)
3.7
古典的怪談映画のエッセンスが集約された作品。

■ 概要

原作は、三遊亭圓朝が創作した怪談噺の傑作『真景累ヶ淵』で、中川信夫が本格的に怪談映画を演出した第一作目の作品。


■ あらすじ

『旗本・深見新左衛門は借金のいざこざから座頭の皆川宗悦を殺すが、その怨霊によって自らも狂い死にする。
そして20年後、それぞれの息子と娘・新吉と豊志賀は、互いの素性を知らぬまま恋に落ちる。
だが豊志賀が不注意から顔にキズを負って以来、新吉の心は別の女性に移ってしまう。』


■ 感想

本作は原作「真景累ヶ淵」にて'宗悦の死'から'豊志賀が新吉を呪い殺す'までを描いた作品となっている。


監督に中川信夫監督を起用しているが、怪談映画を初めて監督したとは思えない素晴らしい演出を展開している。

観客を物語に引き込む手法、身の毛もよだつ凄惨無比な恐さ、そして肌に栗を生じる恐ろしい地獄絵図をしっかりと演出している。

また、幽霊が出現するタイミングなど古典的なテクニックを多く使っているものの、中川信夫監督のセンスが光っているので、微塵も古臭さを感じさせないものとなっている。


後に「東海道四谷怪談」でお岩さん役を演じる若杉嘉津子に関しても、素晴らしい演技を見せている。

今の時代の女優が時代劇の女性を演じた場合、どうしても現代の女性が江戸時代の恰好をして演技をしているようにしか見えないが、若杉嘉津子は時代劇の女性をしっかりと演じており、まるで江戸時代の女性がそのまま映像に映っているようである。

そして日本人特有の儚くも美しさも見事に演じており、作品全体に漂う死の匂いの中に儚い美しさを生み出している。

また、美しさを表現しているだけではなく、恐ろしさもしっかりと生み出しており、生気のない弛緩しきった死んだ表情、そしてその中に潜む静かでおどろおどろしい怨念じみた漆黒のオーラを見事に演じ切っている。

正直、このキズで膿み爛れた豊志賀の、おどろおどろしい姿は何度観てもゾッとさせられる。


まさに、古典的怪談映画のエッセンスが集約された作品と言っても過言ではない、素晴らしい出来となっている。
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