垂直落下式サミング

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロードの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.5
謎の組織スウィートボーイズによって無実の罪を着せられ指名手配された野原一家が、夕飯に家族そろって焼き肉を食べるため、誤解を解きに熱海へと向かうアドベンチャー。
検問で見つかるまではヒッチハイクしたとはいえ、野原家は春日部から熱海までを半日ほどで走破するスーパーアスリートだ。終盤で、一日中歩き疲れてへとへとの野原一家が、「焼き肉ゥゥッ!!!」という叫びを合言葉に、内に秘めたパワーを解放するアクションシーンは、空腹こそが野性におけるベストコンディションなのだということを殊更に意識させる壮絶さ。
前作・前々作のリアル思考から一転、隅々までストレートなお笑いが満載で楽しい作品だ。僕の好きな平成初期のギャグ漫画のノリで、映画一本をまとめている。
『オトナ帝国』『戦国大合戦』の次にコレがくるのは、原恵一体制で行くところまで行ったから、ここらで大きく舵を切って、もう一度、本来のギャグアニメとしてのクレヨンしんちゃんの路線に立ち返ろうという、至極真っ当な理由からだろう。
劇場版クレヨンしんちゃんを引き継いだ水島努監督は、後に『ガールズ&パンツァー』を世に送り出すヒットメーカーだが、これ以前には『ジャングルはいつもハレのちグゥ』のテレビシリーズを手掛けていたらしく、なるほどストーリーとナンセンスコメディの兼ね合いと、劇中歌謡に意味を持たせるテイストが似ている。
『ジャングル』『オトナ帝国』では、追い詰められたまさおくんの覚醒が劇場版ならではの見せ場になっていたが、今回は積極的に友達を裏切った挙げ句、すぐやられるザコ。ハッキリ過去作とは線引きをして、映画版を仕切り直そうという姿勢が徹底している。
その意味で、劇場版シリーズのお約束となっているお姉さんとオカマのキャラクターもひと味違っており、本作では妙にリアリスティックで生々しい大人な背景を漂わせている。
しんちゃんを捕まえようと冷徹に追ってくるおねえさんは、登場するたびに服装が変わる衣装持ちで、ベージュおパンツでキツイ性格のAカップ。大人びてはいているけど、まだ大人未満の青さが残る女の子だ。愛いね。
また、前作まではステレオタイプな変態的な性趣向という描写にとどまっていたオカマ登場についても、本作はノンケがドン引きするタイプのハッテン系ガチホモのトラッカーが降臨。女装しているひろしが言い寄られる場面は、その人物の見た目や言動が妙にセクシュアルで気まずい。でも、熱海ですれ違うラストは切ない。
スウィートボーイズのボスが歌う熱海ソングが好き。クライマックスの気が狂いそうな肌色の氾濫とともに、耳にこべり付く気持ち悪いリズムだ。これは「古代ローマ風呂衰亡史」というタイトルらしい。エンディング曲「こんな時こそ焼き肉がある」とあわせてカラオケで歌いたい。
シリーズファンおじさんは、「オラのチンチンの勝ち」っていう台詞で泣ける。