tak

親切なクムジャさんのtakのレビュー・感想・評価

親切なクムジャさん(2005年製作の映画)
3.7
この映画を観た頃、僕は復讐ものに魅了されっぱなしだった。それは言うまでもなく「キル・ビル」から始まっている。そしてタランティーノが審査員長を務めたカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した復讐ものの極み「オールド・ボーイ」。荒々しくも美しい映像美と復讐に燃える主人公の一途さに感動した。そのパク・チャムク監督の次の作品がこれだ。新たなる復讐ヒロインはイ・ヨンエ。僕はテレビドラマ「チャングムの誓い」がお気に入りで(というかイ・ヨンエに惚れました)、彼女が血まみれの復讐ヒロインを演ずることに魅力を感じて劇場へ足を運んだのは言うまでもない。「チャングム」だって広義の復讐ものと呼べるしね。

 復讐を遂げたとき、人はどんな表情を見せるのだろう。チェ・ミンシクを被害者家族と寄ってたかって死に至らしめる場面。被害者家族の誰もが、犯人への怒り、被害者の子供を思う悲しみ、どんな形であれ人を手にかけてしまう怖さをありありと表現していた。だが、イ・ヨンエ演ずるクムジャはいたって冷静。だが死体を始末する場面で彼女の感情は再び高まりを見せ、物言わぬ死体に銃弾を撃ち込む。僕はこの後の何とも表現しがたい彼女の表情が目に焼き付いて離れない。それは「キル・ビルvol.2」のラストシーンでユマ・サーマンが見せた泣き笑いを思い出させる。劇中クムジャは「私が天使だとしたら、あの残酷なことをしたときに天使はどこにいたのでしょう」と言うが、あの短いカットの表情に、僕は悪魔が天使に戻ろうとする瞬間を見た気がしたのだ。普通の美人女優なら絶対にしないようなイ・ヨンエの熱演が、クムジャというヒロイン像を激しく増幅させているのだ。

 前作以上に過剰になった映像の遊びもこの映画の魅力でもある。後光が差しているイ・ヨンエには吹き出しそうになったし、痛ましく思える場面にも随所にユーモアが散りばめられている。オープニングの白い粉と赤いソースが血にみたてられる美しさ。刑務所での数々のエピソードや個性的な受刑者たち。劇場を出た僕は緊張から解放された後の脱力感を感じていたが、何故か不思議な達成感のような気持ちがあった。
tak

tak