茶一郎

サハラ戦車隊の茶一郎のレビュー・感想・評価

サハラ戦車隊(1943年製作の映画)
4.3
 美少女が戦車に乗って戦う異常な光景が当たり前となっている日本の観客が、この元祖戦車映画を見ない訳にはいきません。
 今作『サハラ戦車隊』は、第二次世界大戦真っ最中に製作された戦争映画。北アフリカ戦線にてアメリカ軍に撤退令が出される中、搭乗していたM3中戦車のエンジンドラブルにより本隊から取り残されてしまったアメリカ兵3名と、彼らの決死の砂漠越えの道中に出会った様々な国の兵士、その物語を描きます。

 前半は「何これ楽しい」と、思わず呟いてしまうほどにコミカル、戦争映画というよりは戦車を乗り物とするロードムービーと言った感じに物語が進みます。しかし登場人物を取り巻く環境は何と言っても「戦場」。後半からは地獄の戦場に観客を追い込む、恐怖の戦争映画に変貌をしました。

 とても面白く、かつ興味深いのは主人公率いる戦車隊が、異国・異人種の兵士が混合したごちゃ混ぜのチームを形成しながら砂漠を進んでいくことです。途中で搭乗するアフリカ系(黒人)への差別表現は、今作において批判の対象。つまるところ戦争という極限状態において、差別・偏見などはしている暇がないということかもしれません。
 2017年アメリカの数々の賞レースに名を挙げている『マッドバウンド』(2017年Netflixにて公開)でも、戦争から帰ってきたアフリカ系の青年が、危険な戦場よりむしろ平和な本国の方が、差別・偏見が厳しいということを体験するという描写がありましたが、この『サハラ戦車隊』の人種差別描写は『マッドバウンド』や、21世紀のポリティカル・コレクトネスに沿ったものと言えると思います。

 本物の戦車、本物の砂漠、そして終盤のジャイアント・キリング展開、全国の男子はこれだけでテンション爆アガり。しかし観客が目撃するのは、戦争の悲惨さであり、戦場の地獄に他なりません。 
 「戦車道」映画というより戦中に作られた「反戦映画」として心に来るものがある一本でした。
茶一郎

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