純

危険な関係の純のレビュー・感想・評価

危険な関係(1959年製作の映画)
3.5
きっと殉教者のように美しかっただろう、なんて思う横顔に、私たちは出会ったことがあるだろうか。真っ白な世界でふたりきり、笑顔を向け合うにはあまりにも虚しくて、誰にも見られないからこそ美しい表情があった。本物の愛はいつだって新しくて強いのに、どうして私たちばかりが弱くなっていくのかな。

危険な関係。ひとの不誠実な気持ちが引き寄せる、恐ろしい関係。不倫なのに不倫じゃない。遊びとして男女の関係を割り切る夫婦が、どんなに高らかに笑っていても不気味に見えた。彼らの視線や仕草はどれも色っぽくて整っているけれど、心を弄ぶのは悪なんだ。どんなに素敵な言葉や時間を受け取っても、愛がないなら腐ってしまう。私たち、悲しませるために相手に触れるんじゃないんだよ。

男女の駆け引きはなんてくだらなくて愛おしいんだろうね。抱いたらいけない感情なんてないと信じていたい。心惹かれるものに走り寄れたらいいのに、私たちは小さなことにも意味を見出そうとして苦しくなる。描かれている人間模様は不道徳で傲慢で最低なのに、根本には絶対的な弱さがあるひとたちばかりから思ってしまう、「大丈夫ですよ」って。今からでも大丈夫ですよ。そう言ってくれるひとがいたら、何か変わったのかもしれないのにね。

歯車が狂って、誰も幸せになれないのは怖い。ひとの心を軽んじた罰だと言ってしまえばそれまでだけど、それでも焦がれたり掻き立てられたりする純粋な思いを知ったなら、救われてほしいと思ってしまう。愛には正直でいよう。勝ち負けとか優劣とか、そんなことで本当の胸の高鳴りを消してしまわないで。後味が悪いというよりも、なんだかどうしようもない救われなさと寂しさが不協和音となって侵入してくるような、そんなラストだった。
純