ゆう

美味しんぼのゆうのレビュー・感想・評価

美味しんぼ(1996年製作の映画)
4.5
日光東照宮には御香守というお守りがある。

これは本殿でしか購入出来ないお守りなのだが
御香守というお守りは全国でも珍しく、通常1年間お守りとして身に付けた場合は返納することが原則だが、これは香りがなくなるまで効力を得ることが出来る。

それは、山奥で中々行けないという理由もあるが、その香りを持ってお参りに行ったことを思い出させるからだ。

人間の五感の中でも香りと味覚は、一瞬にしてタイムスリップが出来る
視覚と聴覚は衰え、時代とともに風景も変わるが嗅覚と味覚、付け加えて触覚はもしや変わらないのかもしれないと見ていて感じた。

この映画も一人、一人の人生の一端が、味覚を通じて通い合う。
その可視化されえないものを芝居を通じて近付け得た力作。
森崎東は芝居の演出は撮れる人だと思っていたけどこんなに丁寧に撮られた作品はびっくりした。
他のレビューもあるように煮豆にそっと渡される1粒の豆を手に置いて、親子の13年の確執が生モノの食を通じて和解していく慎ましやかな演出に感動した。

遠山景織子がまた良い。
主張せずとも慎ましやかにそこに佇まんでいるだけで良いとも思える。

フラッドな照明でありながら、湯気がこれも照明の閃光を感じさせず、慎ましやかだは確かにそこに今、料理されている瞬間がしっかり焼き付けられていた。

ホームレスとの談笑でこれまた適度な距離間を持って撮影されているショットや
丹波に煮豆を買いに行く、佐藤浩市の視線に翻る旗とそのカットバックで撮られたショット
ラスト、桜ナメで撮られた遠山景織子の望遠もその去った後ろ姿からそっと桜の花が2、3枚散ろうとも
佐藤浩市と三國連太郎を自転車引きながらの歩みと煮豆を求めて杖の不自由さなど消えてしまった三國連太郎の杖による歩みすら慎ましやかとしか言えない。

そのショットの持続をより物語への貢献を優先した演出は見事というしかない。
ゆう

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