垂直落下式サミング

砂の女の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
5.0
連日の猛暑。室内で時間と酸素を浪費するだけのぬる錆びた平和に辟易不可避なこんな時は、この『砂の女』の世界に埋没したい。
ヘンテコなはなしだ。砂漠にある巨大な蟻地獄のなかに一軒の家が建っていて、家にはひとりの女が住んでいる。昆虫採集をしに訪れた男が、村人に騙されて、そこに閉じ込められる。それだけのおはなしに、妙に引き込まれる。
何やらこの蟻地獄のなかには人間の性が埋もれていってしまうようで、そのなかにいるうちに人として何か重大な理性のようなものが、体だけ残して下に沈んでいってしまうかのような、実に不可思議な物語だ。
何度みても、本作が何の教訓を描いているのかぜんぜん意味がわからないし、原作小説を読んだ上で再度鑑賞しても、私がこの映画に惹かれるのは、「テーマ」の部分に強く共鳴したからではないことがわかっただけだった。この映画を、私はただの少しも理解してはいない。だのに年に一度くらいの周期で、もう一度あそこに戻りたくなる。
堅苦しいことが苦手な人は、畳のぽよぽよ具合に注目してほしい。原作には「畳は腐る寸前」という描写があるが、腐った畳は踏みしめるともう少しクシュッと潰れような触感がするはずだ。なぜこんなにぽよぽよなのだろう。ウレタンのような柔さではなく、かといってゴムほど弾力があるわけでもない。乾いているのに湿気っていくとはこういうことなのであろうか。どういう環境ならあんなにぽよぽよになるのかと思考を巡らさずにはいられないほど、とにかくぽよぽよで、ぽよぽよのまま形を保っているのだ。これだけ見てほしい。カビ臭い柔道場よりも超ぽよぽよだ!