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マイ・マザーのTakaCineのレビュー・感想・評価

マイ・マザー(2009年製作の映画)
3.8
食べている口を大写しに撮るショットの連続。

僕はそれを観て、自然と顔を歪めた。ベタベタ食べ物が付いた口や指を舐めるショットは、決して綺麗には見えないからだ。

途端に同じように顔を歪めて、母親を眺めるユベール(グザヴィエ・ドラン)の表情が映し出された。

同じ表情、そして嫌悪感。それは一時、男の子が母親に感じる嫌悪感そのものだった。

想像はしていた。ドランで題名が「マイ・マザー」だから、居心地が良いはずがない。彼のデビュー作は、とてつもなく私的な母親への鬱積…それも嫌悪感をハムレット口調で独白した作品だった。

それにしても瑞々しいセンスですね。自分の伝えたい事を真っ直ぐ表現する素直さと鋭さ。若々しい等身大の叫びと(きっと)天性の美的感性が魅力で、敢えて観客を刺激するショットやセリフを挟み込む。若くして監督になるべく逸材と瞬間的に思ってしまった。

まして、凄くフォトジェニックな表情をしている。現代のハムレットであり、ジェームス・ディーンの繊細さと危うさがありますね(本人は意識していると思います)。

天は二物を与えました(笑)🎊

全ての男がそうかは分かりませんが、僕も思春期の頃は、ユベールと同じく母親の一挙手一投足が気に入りませんでした。いつも文句ばかり言っていた。

母親のずぼらさに呆れ、浅はかさに頭に来て、女々しさにイライラした。いちいち聞いてくるのが面倒くさく、干渉されるのが煩わしかった(育ててくれた恩を忘れてますね)。

今思えば、これは父親には感じない感情だった。母親にだけ持った感情だった。たぶん理由は、母親と一緒にいる時間が長いから、ドライな関係でいられない。感情的に抗戦されるから、感情的に反抗してしまう。僕の母親は凄い心配症で、あれこれ反対してくるから尚更煩わしく思ったものだ。

今なら愛情から来た行動だと理解できるけど、当時は大嫌いだった。「何でそうなんだ?」といつも苛立っていた。

実は"それだけ"母親のことを見ていたんですよね…気になって、気になってつい言ってしまうのは…僕の方も同じだった(-_-;)

その奥底には「母親はこうであってほしい」「母親には分かってもらいたい」の想いが潜んでいた。まさに"好きだけど嫌い"状態。愛憎心理。

自分の行動をあれこれ言われて否定されることは、「好きな母親に否定されていると感じるから」嫌になるんですよね。他人ならどうってことないけど、母親だから許せないのです。愛すべきは母、憎むべきは母。

だから反撃として、母親を攻撃する!!ただユベールの攻撃は容赦なさすぎですが(耐える母親が可哀想だった)。

更にユベールには、母親にさえ話せない秘密があるから葛藤も大きい。

この辺りの描写力は、ドランの実感が籠っているようで圧巻!!ただ、ユベールは自分から心を閉じていました(受け入れてもらえないと諦めている)。一番拒んでいたのは、母を求める自分の感情。

「今日、僕が死んだら?」と訪ねるユベール。

「明日、あたしも死ぬわ」とユベールが立ち去った後に呟く母親。

普通でない母親と普通でない息子。お互い一緒にいるには、窮屈だし傷つけてばかり。喧嘩するけど、やっぱりお似合いの親子。

母親の罪悪感、息子の罪悪感。どちらも素直に謝れば良いのに、傷付きすぎてそれが出来ないだよね。

僕も今は思ってるよ。
こんな母親にこんな息子…
凄く嫌いだったけど、やっぱり今では恋しいよ。

こんな感情を引き出すドランは凄いね。
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