しちみ

マイ・マザーのしちみのレビュー・感想・評価

マイ・マザー(2009年製作の映画)
4.4
いやー、自分の過去を見ているようでキツかったです。笑
起承転結のある物語で最後はどう集結するんだろう?と思ってましたが、そういう訳ではなく母と子の日常をただ切り取った映画に近かったかなと。

それにしてもよく出来てる。驚くほどリアルだなと思ったけど監督の半自伝に近いらしいので納得。とはいえそれをここまで緻密に仕上げてくるのには脱帽です。

この映画で起こることは本当に本当にリアルで同じように家族との確執を抱える人はすごく突き刺さるし苦しいんじゃないかと思う。

前半はとにかく息子がわがままで暴君。母親の言ってることの方が一枚上手でどうしても息子が横暴に見えてしまう。けどこれは色々な理由があって、単純な反抗期ならばここまで行かないんですよ。そこには幼少期でのコンプレックスや寂しさ、悲しさなどがたくさん混じってて母親から何を返されても俺がこうなったのはお前のせいだ!と言わんばかりに反抗するんです。

ただ面白いのはそれをこの映画では細かく描いてないところ。所々でユベールは『4歳の頃から1人だった』『世界で1番最低な母親だ』と口にするのですがなんでそんな風に思うようになったのか、過去にどんなことがあったのかが描かれないのです。だから家族とそれなりに上手い関係を築いて育ってきた人にこの映画を一発で理解したり、受け入れることは難しいかもしれない。

そして後半になると今度は息子と距離を置く選択をした母親に焦点が行く。私は親になったことがないので親になった時にこの母親の選択を少しは理解できるようになるのかもしれないのですが現段階ではユベールと全く同じ心境でした。
結局手に負えないからユベールを適当な寮にいれてしまうんだな、離してしまうんだなと。

ただこれもかなり難しくて母親からすると"ユベールは私と離れたがっている。けど一人暮らしはさせられない。本当は離れたくないけれどこれ以上ユベールとの関係が壊れてしまうのは辛い。ならば一旦愛してるからこそ離れよう。"っていう気持ちなんじゃないかな?とは思うんですが…。

それを踏まえたとしてもユベールは母親にもっと手を焼いてもらって構ってもらって衝突しまくりでも自分を手放さないという、そういう愛を求めてたんだろうなと思うんです。

このお互いがお互いを本当は愛し合っていてそしてそれは嘘ではなく本心からというのをたったワンシーンの「僕が今日死んだら?」「明日私も死ぬわ」に凝縮している。こりゃすごい作品。作ろうと思って作れるものじゃない。経験したことがない人には絶対作れない。そして経験した上でこの完成度のものを作るのもバケモノです。

ただ自分と本当に重なるからもうしばらくは見れないかな😂
しちみ

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