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バーバーのRのレビュー・感想・評価

バーバー(2001年製作の映画)
5.0
めちゃくちゃ久しぶりに見てみた。記憶が確かならば5回目の鑑賞。やっぱおもしろいですねー! こんな人を小バカにした映画なかなかないと思う。コーエン兄弟そういうの多いけど本作はかなりひどい笑 無口でヘビースモーカーな中年理髪師エド。特に何も深く考えることなく、ただ流れるままに人生を生きてきた面白みのかけらもない男。愛も会話もない酒飲みの妻は、地元のデパートで会計の仕事をしてて、そこの上司と不倫してる。エドはそのことを知っているが、何も言わずにいる。何に対しても心が動かず、ただ時間だけが過ぎていく日常。ここまでは、日本でもまぁありがちな中年男性の心象風景なのではなかろうか。そんなある日、ドライクリーニングのビジネスを起業するため資金を求めてるゲイの男が、たまたまエドの店に髪を切りにやってくる。その儲け話がエドの心に響いてしまったようで、今まで人生の全側面において受け身だったエドが、妻の不倫相手に、お前の不倫を世間に言いふらされたくなければ、1万ドルを指定の場所におけ、と脅迫の手紙を送り、その金をゲイのおっさんに託す、という大胆な行動に。しかし、そこからエドの人生があれよあれよと崩壊し始める……てかどちらかと言うと、エドの人生ははじめから空っぽで、それが全部露わになって、静かにゆっくりと崩壊していく感じ。その事実をエドがどのように受け止めるのか、それがめちゃめちゃ興味深いのです。それこそ本作の最大の見所なので、あまり触れずにおこう。そして、彼の前に現れる、ベートーベンのソナタを弾く美少女。この子の人生を、自分らみたいに平凡なまま腐らせてはいけない、何とかしてやらなければ、と、これまた柄でもないことを考え始めた結果……。流れるままの人生=空虚、流れに逆らってみた人生=崩壊、というあまりにもペシミスティックな展開で、それをまったくワケの分からない、意味を成さぬ不条理として演出するコーエン兄弟のセンスは抜群で、特に、妻の不倫相手の奥さんが夜中にうちに訪ねてくるシーンとか、演技も含めて爆笑。常にクールにタバコをふかし、下らないことばっか考えてるエドを演じたビリーボブソーントンの笑いと哀れみを誘う完璧な演技、腐りきった精神の中にすら人間の崇高さの煌きを微かにのぞかせる奥さんを演じるフランシスマクドーマンドのカッコよさ! 最高! な上、脇を固める俳優たちのバカバカしいほど素晴らしい演技に圧倒されるし、何より陰影が深くシュールでノワールな映像と、ゆるやかで冷たいカメラワークが美しすぎて、全編魔法のように見入ってしまう。特に、ラストシーンのインパクトは強烈! 一度見ると忘れられない目の眩む虚無のまばゆさ! 隅々までコーエン兄弟の鬼才と意地悪さが行き届いた大傑作と思います。好き嫌いは別にして、ひとつの世界観を築きあげて提示する映画作品として、非の打ち所がない。今後も何度も繰り返し見たいし、是非とも多くの人に見てみてもらいたい。ちなみに、禁煙している人には、本作を見るのはお勧めできません。24歳で禁煙を始めたとき、3日目くらいに本作を通して見たのに、エドがふかす美味しそうなタバコの煙しか記憶に残らなかった。クラクラきた。そんくらいエドは美味しそうに煙草を吸います。要注意!!!
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