ぼのご

アリスのぼのごのネタバレレビュー・内容・結末

アリス(1988年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

冒頭、小川のせせらぎ。音が心地良いなと思ったら、その後も作中の至るところで様々な音が効果的に使われていた。
小物類も凝りに凝っていて、色彩や汚れ具合なんかも丁寧で良い美術。

川のほとりから室内?に戻るアリス。そこに現れる白ウサギ。
いきなりガラスをカチ割り、目についた貝殻の首飾りをハサミでチョン切り、登場からして暴力的。僕だったらこんなウサギ、絶対に追いかけたくない…笑

暴力のにおいは白ウサギに限らずあちこちに蔓延していて加速していく。
白ウサギは女王の命令に対してひたすら忠実だけど、下の者?に対してはひたすら高慢。それで下の者は白ウサギに卑屈なくらい言われるがままだった。これって社会の縮図みたい。

出てくる生き物は現実ではあり得ないような異形のものたちで、行動もトンデモナイから見ていてけっこう虫唾が走ってしまう。それでいて地球の何処かにいるかもしれないと思わせるような生々しさ。よく出来ていた。
アリスはお人形さんみたいで非現実的に可愛らしい。倫理観もしっかりしていたと思う。潰しちゃった靴下の芋虫に息を吹き込んで元通りにしてあげたり、優しさが自然だった。

棚に置いてある瓶の中のジャム、ジャムに混じる画鋲、粘着質な悪意に背筋が凍る。釘が刺されまくったパンや、動く生肉、卵から骨の鳥が生まれてきたり、食べ物関連の描写は殆ど全てが異様。作り手側は基本的に食に関して嫌悪感を抱いているような印象を受けた。

話の大筋は『不思議の国のアリス』をなぞっているのに、作り込まれた細部で圧倒的に独自色が醸し出されていた。童話らしい反復も存分に誇張されていて、帽子屋とのお茶会は特に顕著でめまいがした。結局夢だったと思いきや現実でもあった可能性を示唆するラストは、お決まりの手法というより夢と現実は地続きと捉えていそうな監督の感性によるものかなって思った。
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