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アリスのarchのレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
4.1
ビジュアルが何よりも物語り、緊張感をもたらしてくれる作品だった。
ストーリーとしてはルイス・キャロルの原作(並びにそれを原作とする様々な作品)と大きく違うところ(主要なキャラが登場しているという意味)はなく、懐中時計を持ってる白うさぎ、大きくなるビスケット、小さくなる薬、小さな扉、マッドハッターとうさぎのお茶会、ハートの女王…etc そういった『不思議の国のアリス』を定義付けるキャラクターが点々と物語上に配置され、これは『不思議の国のアリス』だとしている。ただだれらのキャラクターがグロテスクで奇抜なデザインで登場する為に、果たしてこれは「不思議の国のアリス」なのかと疑う気持ちもある。様々な媒体で様々な趣旨でデザインされてきた「不思議の国のアリス」だが、本作もまたその一例として異質なデザインとなっている訳だが、その奇抜さは不意に「不思議の国のアリス」とは違う何かになるのではないか、という緊張感を持っていた。


本作には物語と呼べるものがあるのかということも考えた。悪夢的な非現実感が幼女の無垢な視点で進行する、その一方でこの物語のナレーション、つまり進行は彼女に依存している。夢なのだから当然かもしれないが、この物語のキャラクターは全てアリスの采配の中にある。受動的に展開するようでいて、全てを支配した上で恍惚な悪夢を無自覚に堪能するような視点は不気味で面白い。
彼女の夢のナレーションは行動や言動を書き言葉のように表現したもの。ならばそれは予言のようなものと考えられるかもしれない。その時彼女が最後に残した"予言"である「首を切らなきゃ」(曖昧)は果たして何を意味するのだろう。
『インセプション』を思い出すし、強烈な悪夢が現実だった、或いは現実と区別のつかなくなってしまったというラストはこの上ない恐ろしい終わり方だった。
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