ろく

パーフェクトブルーのろくのレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.2
今敏は「夢/現」に拘ってしまう監督だ。

今作でもそれは如実に現れているし、パプリカなんかそれの結実だと思う、千年女優や制作に携わった甲殻機動隊でもそれは明白だ。

でなぜ「夢/現」なのか。

それは僕らがそもそも拘っているのが「夢/現」だからだ。そうだよ、僕らは選択に選択を重ね、「今」の世界を築いている。でもその選択は本当に正しかったのか。そう言われて「そうだ」って言える人はあまりいないんじゃない。そして「あの頃こうしていれば」「あの時こうなっていたら」そんな出来もしない「後悔」にばかり苛まれる。苛まれていないなんて言わせないぞ。うまくいっているフリをしているだけじゃないか。そして「後悔」を何らかの形で隠蔽している。でも今敏はその隠蔽を引っぺがす。そして「あなたはほんとにこれでいいの」ってくる。ああそうなったらもうジタバタが止まらないよ。

そもそも人間はみんな後悔しているからこそ「神」を「あの世」を信じていたんじゃないか。だって今の世界が救いがないときに。「救いがないことを認めなさい」と言われていては精神が病むじゃないか。日本だったら浄土信仰だって一向宗だってそうして「後悔」を先送りしていたんだ。

でもね、それはただの慰みなんだよ。ニーチェは言っているじゃん。神は死んだって。ハイデガーもあるのは原存在だけだって言っている。それは今敏もそうなんだ。だからこの映画は「決着」をつける。「夢/現」では物事は解決できないんだよ。

最後を安易なサイコスリラーと見るか。それとも今敏の明日への一歩と見るか。それは決して成功しているとは言えないけど、それでも僕は「明日への一歩」を採る。今敏はそこで「逃げるんじゃない。今を生きろ」至極当たりまえなメッセージを発する。もう一度言うがそれは成功しているかどうかは分からない。でも僕は肯定的にとらえてしまう。

※見ていてついついデヴィッドリンチの映画を思い出してしまう。その中でもあの名作「ツインピークス」が頭に入りこんでくる。ただ僕はあの作品よりも今作のがストレートなメッセージがあると思っている(それは児戯的かもしれないけど)。デヴィッドリンチはいまだに暗中模索だ。

※この映画(アニメ)を2000年より前に作ったことに今更ながら驚いている。確かにその頃はアニメも変格してきたがまだ「アニメは夢と希望」だったと思う。そして性的なものに真向から対峙してみたことにも賛意を送りたい。それもまた当時はある程度の「タブー」だった。今敏がタブーを破ったのではなく、同時多発的にそのタブーは破られたとも思っている。エヴァが出てきてたことはここに明記するまでもない。

※絵はやはり古い。アニメの技術はほんとに上がってきたんだなと改めて思う。今敏がいまだに生きていたらどんなアニメを作ったんだろう、そんなことも考えてしまう。早逝を残念に思う。
ろく

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