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トムボーイのarchのレビュー・感想・評価

トムボーイ(2011年製作の映画)
5.0
「水の中のつぼみ」「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ監督の大傑作。
まさに上述の二作の中間をついたような、ジェンダーとモラトリアムを生きるイノセンスについての物語である。

ジェンダーのない世界があるとすれば、それは性を自覚しない少年少女の時代だろう。本作はそんなモラトリアムを瑞々しく描きだす。何から何まで上手く、イノセンスの情感を見事に描きだすわけだが、赤と青の使い方が本当に上手い。

赤と青、色から感じるジェンダーは錯覚であり、単なる印象でしかない

その色に対する印象はミカエル(ロール)の外見から感じ取るジェンダーの感覚と同じである。
最初赤女、青男の構図はサラッと提示する。その上で男の子の服装で、男の子にしか見えないミカエルに赤色の服を身につけさせる。そうすることで女らしい赤と男らしい赤を混同させる。対照的にリザには青を配置する。
これらの意図はジェンダーバイアスが如何に脆い思い込みに依存しているかをあぶりだすことであり、イノセンスを通じて、ジェンダーのない世界を作り上げている。(その完成系が「燃ゆる女の肖像」)



そしてそれら全てが期限付きであることが本作を切ないものにする。
その嘘が休みの間だけの期限付きであること、そしてそのジェンダーに捕らわれない少年少女の期間も、大人になるにつれて性的な特徴が大きくなることや精神的ものも含めて"期限付き"なのだ。



これから彼女がぶち当たっていくだろう社会や他人との問題を垣間見せつつ、ジェンダーを超えて理解し合えるわずかな希望を可愛らしいイノセンスの交流を通して描く。大傑作。
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