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フィラデルフィアのYYamadaのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
3.8
【法廷映画のススメ】
『フィラデルフィア』(1993年)
〈実話を基にしたフィクション〉
  (1990年代 / フィラデルフィア)

◆法廷の争点
エイズ患者の弁護士に対する大手法律事務所の不当解雇について
・法律事務所の経営者は、エイズ感染を知っていたか?
・解雇理由は、本当に「弁護士個人の業績不振」であったのか?
・職場環境にマイノリティー差別はあったか?

〈見処〉
①民主主義の発祥の地、フィラデルフィアで正義を問う
・『フィラデルフィア』は、1993年に製作されと法廷サスペンス映画。
・本作の舞台は、アメリカ建国の地、フィラデルフィア。大手法律事務所に勤務する弁護士ベケット(トム・ハンクス)は、エイズに感染。会社は一方的に彼を解雇。
・エイズ患者に対する不当な差別だとしてベケットは訴訟を決意し、以前は敵として法廷で闘ったことのあるミラー(デンゼル・ワシントン)に弁護を依頼する。ミラーはベケットがエイズ患者であり、かつ同性愛者であることに偏見を抱き、一度は依頼を断るが、それでも偏見や蔑視と戦おうとするベケットの姿に心を打たれ、弁護を引き受けることに。しかし、裁判は日に日に衰弱していくベケットとその関係者にとって過酷なものになっていく…(eiga.comより抜粋)。
・本作はエイズとゲイにまつわる偏見を法廷で覆してゆく人間ドラマ。フィクション作品である本作であるが、日本にも拠点を構えるアメリカの大手法律事務所Baker & McKenzie法律事務所に起こった1987年の事件に告示しているとして、その遺族と本作
制作会社は和解している。
・マイノリティーに対する差別を本格的に扱った初のハリウッド映画である本作は、第66回アカデミー賞にて、トム・ハンクスに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、本作オリジナル楽曲「ストリーツ・オブ・フィラデルフィア」を提供したブルース・スプリングスティーンは、歌曲賞を受賞している。

②二大俳優と本作
◆トム・ハンクス (当時37歳)
・アメリカ国民的バラエティ『サタデー・ナイト・ライブ』出身のトム・ハンクスの主戦場はライト・コメディ。初期の代表作『ビッグ』(1988)では、ゴールデングローブ賞 主演男優賞を受賞し、コメディ映画のスターの地位を確立。
・彼の転機となったのは、エイズ患者という難役に挑んだ本作。そのシリアスな演技は絶賛され、翌1994年には『フォレスト・ガンプ/一期一会』で2年連続、アカデミー主演男優賞を受賞。一躍ハリウッド有数の名優にステップアップし、以降は現在に至るまで主演俳優としての地位に君臨している。

◆デンゼル・ワシントン (当時38歳)
・80年代は、TVドラマを中心に活躍していたワシントンが映画作品で注目を浴びた最初の作品は、リチャード・アッテンボローの反アパルトヘイト伝記映画『遠い夜明け』(1987)にて、初めてアカデミー助演男優賞にノミネートされたとき。そして、1989年には『グローリー』にてアカデミー助演男優賞を戴冠。
・さらにスパイク・リー監督による『マルコムX』(1992)では、一夜にして彼のキャリアを大きく変え、アメリカで最も尊敬されるべき俳優にまでのし上がったが、型にはまった俳優にはなりたくなかった彼が、これまでのキャリアを犠牲にする覚悟でチャレンジした作品が翌1993年の本作である。

③ジョナサン・デミ
・本作の監督ジョナサン・デミは、B級映画の帝王」ロジャーコーマンに師事し、キャリアを作っていった苦労人監督。
・彼の代表作『羊たちの沈黙』(1991)では、アカデミー作品賞/監督賞/脚本賞/主演男優賞/主演女優賞の主要5部門を制覇した3本の映画の一本となり(他は『或る夜の出来事』『カッコーの巣の上で』)となり、「一発屋監督」と揶揄されたが、続く本作では見事に結果を残している。

④結び…本作の見処は?
◎: 裁判と病魔の進行にて、次第に衰弱していくトム・ハンクスの鬼気迫る演技を見せる。
◎: 不当解雇の事件がエイズやLGBTのマイノリティー差別にまで影響を及ぼす様を描き、時代を先行したテーマを扱った画期的作品。
○: 弁護士が弁護士を訴える。『バック・トゥ・ザ・フューチャーⅢ』のメアリー・スティーン・バージェンによる被告側弁護士 VS 原告側デンゼル・ワシントン。法廷論争は、互いの主張が拮抗し、大変見ごたえがある。
○: オープニングのブルース・スプリングスティーン、エンディングのニール・ヤングによるオリジナル楽曲に加え、劇中のオペラ曲が大事なシーンに登用されるなど、音楽が印象的な作品である。
▲: オペラ視聴シーンなど、橋田壽賀子ドラマ並みの長コマ演出がテンポを悪くする。テンポ重視の近年と異なる90年代の編集に時代を感じる。
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