ゆーさく

フィラデルフィアのゆーさくのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
4.0
多分トム・ハンクスの映画の中で、一番トム・ハンクスに気合い入ってんのがこれ。

大体の映画で上手い演技してるトム・ハンクスやけど、この映画みたいに迫力を感じる演技ってのはトム・ハンクスでは珍しいと思う。


出世街道まっしぐらの有能で溌剌とした健康な時から、エイズを患い死に向かっていく姿、その命が10から0に至る過程をトム・ハンクスが的確に熱演していて、見応えがある。




兄弟愛の街フィラデルフィアで一流法律事務所に勤める弁護士のアンドリューは、ある日突然、理不尽な解雇通告を受ける。

彼は同僚たちには黙っていたが、実はゲイであり、性行為が原因でエイズに感染していた。

解雇の原因はエイズ差別にあると考えたアンドリューは、不当解雇を理由に訴訟を起こそうとするが、なかなか他の弁護士からの協力が得られない。


そんな彼に協力を申し出たのは、かつて敵同士として争った事のあるミラー弁護士だった、という話。



冒頭陳述でデンゼル・ワシントン演じるミラーが言うように、この法廷劇に劇的な演出はない。
あっと驚く大逆転も、衝撃的な証言をする証人も出てこない。


法廷劇としての面白さを出そうという気はあまりなく、リアリティを以て、どのような意識でエイズ差別が起こるかを描こうとしている。


この映画の一番の肝は、アンドリューを弁護するミラー弁護士自身にもエイズ差別の意識がある、という点。


堂々と「ゲイは嫌いだ」と発言するし、エイズが感染するのではないかと恐れ、アンドリューが触ったものを触りたがらなかったりする。



エイズが空気感染しないのは知識としては知っているが、医療というのは日々進化しているもので、現在は平気だ問題ないと思われていたものが、明日には駄目だと言われたりするもの。

ましてエイズは死の病だ。

生まれたばかりの娘が家にいるミラーがアンドリューを恐れる気持ちは、人情的には大変理解出来る。


彼がアンドリューを弁護するのは、彼がエイズ患者だからではなく、法律が犯されたから。

企業側が差別意識を持ってしまうことに一定の理解を示しつつも、それを理由に解雇する事は法律違反だとするのが、彼の考えなのである。



この映画は、一方的に差別する側を悪人として裁くような、分かりやすいエンタメとして作られてはいない。
そこに、考える余地があり、それがこの映画が名作と言われるゆえんだと思う。
ゆーさく

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