シズヲ

レイジング・ブルのシズヲのレビュー・感想・評価

レイジング・ブル(1980年製作の映画)
4.4
実在のボクサー“レイジング・ブル”の栄光と零落の物語。ボクサーとしての実力は本物であるにも関わらず、粗野で頑固、猜疑心も強くて嫉妬深い。ロバート・デ・ニーロの演技と執念じみた役作りがそんな主人公に異様な程の生々しさを与えている。筋肉質な体型から肥満体に至るまで徹底的に肉体を改造したのはもはや見事と言う他ない。その甲斐もあってボクシングのシーンは躍動感・重量感に溢れていて迫力満点だし、体型の変化が主人公の転落を哀れな程に訴えかけてくる。

作中の演出も秀逸。シャドーボクシングを繰り返すオープニングの時点で鮮烈だし、白黒の映像や情感を廃した話運びなどが『実録の伝記』らしい雰囲気を見事に作り上げている。そこにデ・ニーロの演技と明暗を併せ持った物語が上乗せされるので、とにかく映画全体の現実感が尋常じゃない。ボクシングのシーンもスローモーションや血糊が白黒の映像と上手く噛み合い、独特の凄みを生み出している。

転落劇なので決してスッキリするような内容ではないし、主人公の歪んだ性格が延々と描かれるので空気も鬱屈としている。どうしようもない挫折の物語なのに、自分はそれが感慨深くて仕方がない。主人公が鏡の前で自己暗示を掛けるようなラストシーン、全てを喪った果てにしがみつく虚しさとも落ちぶれてもなお消えぬ闘志とも取れるのが印象深い。
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