まちゃん

レイジング・ブルのまちゃんのレビュー・感想・評価

レイジング・ブル(1980年製作の映画)
4.1
霞がかかったリング上でシャドーボクシングをするボクサーの姿。モノクロの画面の背後に流れるカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲。数ある映画のオープニングシーンの中でも有数の美しさだと思う。しかしこの物語は美しさとは対極のものだ。闘争心溢れる優秀なボクサーのジェイク・ラモッタ。だが一歩リングを降りると嫉妬に狂い暴力を振るう性格破綻者だ。この愚かな男の物語が何故名作と呼ばれているのだろうか。それは己の弱さに振り回され、後悔し、もがきながら生き続ける姿が人生の本質を表しているからだろう。チャンピオンの栄光に包まれながらその影で強い猜疑心に苛まれて孤独になっていくジェイク。別人のように醜く太った引退後の姿は精神の荒廃を表すようだ。やがて刑務所にも収監され、場末のコメディアンに落ちぶれる。しかし、全てを失った事によって人間性の本質が露になっていく。ラストシーンでの現役時代と同じようにシャドーボクシングをして出演の準備をする姿。それはジェイクが心の奥底で勇敢なボクサーの魂を失っていなかった事を示す。ここでオープニングシーンの美しさは人間の魂の美しさだった事に気づいた。人生の深淵を描く名作。
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