ドント

落下の王国のドントのレビュー・感想・評価

落下の王国(2006年製作の映画)
4.5
 2006年。まったくどう書いたらよいものか。何を書いたらよいものか。昔々のロサンゼルスの病院、腕を怪我した少女と、大怪我と心に傷を負ったスタントマンの青年。ふとしたことから青年は少女に即興の「お話」を語りはじめるが……
 現実と、現実の「像」と、子供の想像力とおとぎ話が相互に噛み合い、ここに圧倒的な風景美や華美なる衣装、色味と演出がこれでもかとつぎ込まれ、話は奔放に躍り我々は虜になる。そしてこれが実は病院のベッドで語られているだけの「お話」であることを我々はすっかり、完璧に忘れてしまう。
 何故か? 映像美のせいか? 衣装? 風景? 演技? そうでもあるが、それだけではない。これは病院のベッドで語られているただの「お話」を越えて、我々の現実と、現実の「像」と、想像力とに噛みついて繋がってくるからだ。う~ん何だか話が元に戻ってしまったな……。
 つまりこれは「物語」「物語ること」についての映画なのであった。いかなる人生を送る人にも、それがたいして劇的でなくても(スタントマンくんの絶望の理由たるや!)「物語」はあり、現実にぶち当たって落っこちたとしてもそれでもまだ「物語」は続く。虚構(夢)と現実は絡み合い時に傷つけ合い、しかし決して切り離せない。そして最後にこれが「映画の映画」でもあったことがわかる。映画は、さらに言うなら映画の中の肉体性は、最強の虚構と現実の融合であるからだ。落涙するばかりであった。あまりに尊い作品であり、これは再ソフト化や配信や定期的な再上映をされねばならぬ。
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