emily

アメリカン・スプレンダーのemilyのレビュー・感想・評価

アメリカン・スプレンダー(2003年製作の映画)
3.4
友人のコミック作家ロバート・クラムに触発され、平凡な書類係のハーヴィはコミックの原作作家になりアメリカン・スプレンダーを創刊し、たちまち有名人になる。そんな頃彼のファンのジョイスと出会い結婚し、順風満帆にみえたが。。

歳をとった今の本人と、俳優陣により演じられる自分とその周りの過去の回想を、劇中劇として描写する奥行き感、さらには今の枠の中に劇中劇の役者勢が集合してプライベート感を出すなど、何層にも深みを帯び、厚みを演出している。さらにはそこにポップなコミックの絵が交差し、その中に人物を配置したり、その逆もあり、シニカルな笑いの中に癖のある人物像が 、哀れな中にしっかり温もりを通わす。

色彩も豊かで、場面の切り返しに対照的なポップとシニカルが上手くミックスされ、最後に残るのは壮大な愛である。冴えない中年男を演じるポール・ジアマッティのなりきりぶりが素晴らしい。ギョロっとした目に猫背でお腹ぽっこり、常に周りを見据え、悪態ついてるが、それが外観にマッチしてる。特に前半の彼の描写がポップな中で泳がされてるのが面白い。

後半は一気に悲劇の展開になるかに思え、トーンダウンするもののあっさりした描写で、センチメンタルに転ぶことなく、あくまでドキュメンタリー感とポップな世界の中から出ることなく、最後までさらっと終わっていくのがいい。何も残らないような、それでいて時間が経てばふと思い出してしまうような、絶妙な空気感は後を引きます。
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