映画ネズミ

ニュースの天才の映画ネズミのレビュー・感想・評価

ニュースの天才(2003年製作の映画)
4.2
向いている人:①しっとりした映画が好きな人
       ②主演2人のファン

プロデューサーはトム・クルーズ、しかもトムが出ていないのに、そして主役は『スター・ウォーズ/エピソードⅡ、Ⅲ』のアナキン役のヘイデン・クリステンセンと来れば、トムも『スター・ウォーズ』も好きな私としては、見るしかありません、ということで。

大統領専用機に常備されている「ニュー・リパブリック」誌。その記者のスティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)は、独自の着眼点を持った記事と、気遣いもできる人柄で、職場の人気を集めていた。その彼が書いた「ハッカーがホテルで全国集会を行った」記事の信ぴょう性を疑う声がライバル会社の記者から上がり、編集長でありスティーブンの元同僚チャック・レーン(ピーター・サースガード)も、スティーブンの記事の裏付け調査に乗り出すが、次々に不審な点が浮かび上がる。

 まず注目は、主人公スティーブンの「工作」ぶりです。様々な方法を駆使して、記事の信ぴょう性を信じてもらおうとします。嘘を嘘で固める、友人に泣きつく、元上司に泣きつく、八つ当たり、泣き落とし。あらゆる手段を講じて必死に認めてもらおうとする姿が、醜くも、儚いです。
 次に、そのスティーブンの口八丁に惑わされながらも、真実に迫っていく編集長チャックの、一見「熱さを感じない」淡々とした、しかし徹底した仕事ぶりです。事実をひとつひとつ確認し、裏を取っていく。
 「人が感動したり怖がるものを探し、当事者の目線で記事を書く」。この言葉が、後半、意味を変えて迫ってきます。
 
 実は、記事捏造が起きた原因は、雑誌の編集システムにあった穴でした。なぜ起こったのか?どうすれば防げたのか? ラストでサラッと語られます。なるほど!

最後まで見ると、この映画は、「職場の中での生き方」「人としての生き方」だと思いました。

主人公スティーブンは、書く記事は面白い、会議でも話題の中心、話せば同僚たちや上司から笑いが起き、気遣いもできる。まさに職場の人気者。

これに対し、チャックは、記事は平凡、会議ではたどたどしいし、他の面々と話もしない。仕事が終わればまっすぐ家に帰る。職場のイメージは「堅物」「偏屈」「怒りっぽい」。

そんなチャックは、社長に取り入って編集長に昇進したと思われているので、スティーブンと同僚たちは不快感を露わにしており、チャックは職場で孤立します。

しかし、結局スティーブンは、捏造していたことが発覚します。なぜ?
スティーブンは、冒頭、「ピュリッツァー賞を目指す記者」と言っていたのに?
そのヒントは、スティーブンが劇中で繰り返し発するあるセリフ(疑問形のセリフです)にあると思います。彼の見ていた世界は、大統領や議員に読まれる、政治を動かす、ピュリッツァー賞受賞ではなかったんです。もっと近くの、狭い世界だったんだと思います。

そして、そんな彼の姿勢は、仕事人として、人間として、間違っていた。
実際、何事においても、正直さ・誠実さが大切であると、この映画は教えてくれます。

テーマ、特にスティーブンの気持ちについては、コメント欄で詳しく考えを書きましたので、興味のある方はご覧ください。

スティーブンを演じたヘイデン・クリステンセン(『スター・ウォーズ/エピソードⅡ、Ⅲ』のアナキン!)は、華やかな外見と、影のある瞳がこの役にぴったりです。

チャックを演じたピーター・サースガード。うまいですね~。個人的には、『フライトプラン』『ナイト&デイ』『グリーン・ランタン』『マグニフィセント・セブン』などのアクション映画や『エスター』の印象が強いのですが(『ブルージャスミン』『ラヴレース』は未見)、こういう小規模作品でいい味を出せるのは、本当にいい俳優さんの証拠ですね。あの、内心が読めない表情。少しの表情の変化で悪役にも善人にも見えるのはすごいと思います。

事実上、この2人の演技合戦という雰囲気です。他にもロザリオ・ドーソンやクロエ・セヴィニー、スティーブ・ザーンなど、クセのあるキャストが出演していますが、割と脇感が強いですね。

「ニュースの天才」、静かな映画ですが、生き方、仕事の仕方を考えさせられる映画でした。
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