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ソラリスのRのレビュー・感想・評価

ソラリス(2002年製作の映画)
4.7
SFミステリーの体裁をとりつつ、存在というものの不確かさに鋭く切り込む、スピリチュアルかつ哲学的なラブストーリーだった。ソラリスという惑星を調査してる宇宙ステーションで、何やらトラブルが起こっているらしく、クルーを地球に連れ戻すためにジョージクルーニー演じるクリスが派遣される。ところが、序盤は一体何が起こってるのかまったく分からない。数人のクルーが死んでおり、残ってるたった2人のメンバーに話を聞いても要領を得ない。謎に包まれたまま疲労のため眠りにつくクリス。悪夢から目を覚ますと、そこに死んだはずの妻がいるではないか。どういうことなのだ。混乱し動揺するクリス。だんだんわかってくるのは、人間の潜在意識にあるものをソラリスが物質化できるということ。それによって妻が甦ったということらしい。妻を自殺させてしまったクリスのなかに悔恨と愛情がわきあがり、いま目の前に存在する妻をどう対処するべきなのか、心乱される、というストーリー。このストーリーラインだけでも、かなりミステリアスでエキサイティングなテーマを含んでいるのだが、それがより深くかつ複雑に感じられるのが、妻の視点を考えたときだ。妻は、当然のことながら、なぜ自分がこの宇宙ステーションにいるのかわからない。自分が自殺してから現在までの記憶がなく、それ以前の記憶もまるで自分の経験でないように感じられるようだ。彼女がクリスを見つめる瞳を見てると、だんだん、いや待て、我々普通の人間だってよく考えたら同じじゃないか、我々はなぜこの地球に人間として存在し、どこから来て、どこへ行くのか。我々の記憶だって、時系列なんてなく、まったくランダムで、形も匂いも味も、何もない、明確さのカケラもない。昔の記憶なんて、まるで自分が思い出を作っているかのように感じられさえする。実態があるのもなど、今という瞬間、ここという場所にしかない。しかし、それもすぐに過去へと移ろってゆく。確かなものなど何ひとつない。それは映画というメディアの特性でもある、一瞬一瞬が刻々と過去のものとなり、消えゆく現在とのつながりの中に見える幻影のようなものだ。そう考えると、人生のあらゆる瞬間が幻影に思えてくる。その不確かさ、その不気味さ。しかも妻の視点から見たら、クリスはあくまで妻バージョンのクリスでしかなく、クリスの認識するクリスも、クリスのクリスバージョンでしかない。だが、そんな何かもが曖昧模糊とした中で、個人的に非常に重要だと思ったのが、未来への選択をクリスが強調するシーンであり、そして、最後に自分が大いなる選択をするシーンだ。人間には、本来、現在と未来への選択と行動しかないのだ。最後はかなり賛否わかれるだろうが、ほんとに深い素晴らしいテーマだと思う。ついでに加えておくと、最近様々な研究で明らかになりつつある概念(宇宙とは意識的な存在である、意識とは物質と何ら変わらないエネルギーの波長である、物質とは無数のエネルギーのヒモとそれが活動するフィールドから成る、時間とは本来永遠があるだけで過去・現在・未来は存在しない、物質を構成する素粒子にとって空間は存在しない、などなど)をからめながら見ると、より面白さを感じれると思います。いやーそれにしてもソダーバーグの編集はいつもツボ。こんなにスタイリッシュで気持ちいいカット繋ぎをする監督なかなかいない。透明感あふれるヴィジュアルもすばらしいし、音楽もたまらん。作品全体のムードにピッタリ。途中から入ってくる無機質なベース音に心をさらわれます。そして、ラストシーンが静かに暗転し、音楽に管楽器が加わって、スクリーンにSOLARISと出るときの鳥肌といったら! その後メインのクレジットが流れるのだが、音楽、フォント、文字の色、サイズ、すべてがクリアでクリーンで美しく印象的。クレジットが素敵な映画はホントにすばらしい。ソダーバーグ愛してる! ちなみに、ロシアのタルコフスキー版惑星ソラリスも、根本的なテーマはちょいと異なるけど、すばらしい映画なので、本作好きな人は是非見るべきやし、逆もまた然り。てか本作のジョージクルーニーえらいおっさんくさい、てか、おじいさんに近く見えるよね? 照明やアングルのせいかな。あと、バイオラデイビスはほんと素晴らしい女優です。まだ語りたいこと山ほどあるが、長いので終わりとします。あ、最後に、Blu-rayソフト化してほしい! いつでも見れるように買って持っときたい!
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