DaiOnojima

めしのDaiOnojimaのレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
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「乱れる」に続く成瀬巳喜男強化期間その2

名作として定評があるらしいが、どこがいいのか全くわからなかった。これでキネ旬2位とは理解不能。

倦怠期を迎えた夫婦(原節子、上原謙)を描いた作品。家出した妻が最後には夫のところに戻る。日常のささやかな幸せの大切さを描いたのだろうが、最後に出てくる、夫に従い尽くすのが女の幸せだみたいな原節子の独白にびっくり。そりゃそれが当時の平均的な価値観なのだろうが、そんなありきたりな保守的結論に至るための97分?妻は自立を目指していたのに、ただ現実とまわりのプレッシャーになし崩しになっただけでしょ。当時はこういう、豊かでもない、とりわけ貧乏でもない、中流の下ぐらいの現代(1951年時点の)の家庭を描く筆致が新鮮だったらしいが、今はただ古臭いだけ。

原作の小説は作者の急死で未完に終わったらしく、結末は映画のオリジナルだが、なんでも監督は夫婦が別れる結末にしたかったものの、大人の事情でヨリを戻す作品になったらしい。それじゃ全く逆の話じゃん。木全公彦の解説によれば、原作を連載していた朝日新聞から「離婚は困る」と申し出があり、製作の東宝も「夫婦仲直りしなきゃ興行価値がない」と言われた、という。ならこんなくだらない結末になったのも納得。最後の原節子の独白は諦め、もしくは朝日や東宝への皮肉だったということ?

もちろん良いところもある。小津作品とは全然違う雰囲気の原節子は良かったし、頼りないけど根はいい奴な上原謙の人物像も、今に通じるキャラ。夫が東京に出てきて、妻と再会し、夫婦がよりを戻すまでの妻の心理の描き方もうまかった。敗戦後6年を経た大阪の街並みを描いた映像がまた、興味深い。「乱れる」は、これの14年後の作品だが、社会の風景も人の心のあり方も映画表現もまったく別物と言っていいぐらい変わっていて、当時は14年の時差がとてつもなく大きかったことがわかる。激しく世界が変わった14年だったのだ。2021年と2007年の違いなんて誤差の範囲内でしかないのに。(2021/2/16記)
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