けんたろう

野火のけんたろうのレビュー・感想・評価

野火(1959年製作の映画)
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おさるさんのおはなし。


光りの中に冴える陰り、陰りの中に冴える照り、広大かつ荒涼とした地の圧倒、その途方のなさが起こす絶望…嗚呼!なんたる映像美!
果たして、本作に於ける撮影監督・小林節雄の働きは如何ほどであったろうか。浅学ゆえ今日まで彼に目を向けることは終ぞなかったが、思い返してみれば、『穴』『妻は告白する』『雪之丞変化』『赤い天使』などの映像にもまた比類のないものがあった。むろん監督の手腕があっての出来には違いない。しかし今となっては、この名カメラマンなくしての出来であったとは到底思えない。いよいよ魅了されてしまった。

また、戦う力を失った兵士を演じる船越英二の、生と死を共に湛えた目つき顔つきにも凄まじいものがあった。
地獄を生きた。ゆえに野火を求めて歩く。その最後の姿といったら、もう。


ときにブラックユーモアも交えて描かれる、飢餓と孤独と狂気と残酷。
己れの食環境へ今一度感謝をしなければと思うと同時に、食事中に観なくてよかったと少し安堵もしている。もし再見するならば、是非スクリーンにて賞味してみたい。